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カグライ・ライジング!―英雄なき俺達の夜明け―

鋭い風が異様な気配を乗せて吹き抜ける。今の季節は街の誰もが刃から身を隠すように厚着をするのだが、防刃防神コートを着ている俺達の前では生温い。

「コグロ、今まで有難う」
「今更クソ真面目に何言ってんだ」
「礼節。お前に教わったこと」

相棒は殊勝に笑った。噂では、王都の協会はこのアホを儚い男前として売り出したいらしい。無理な目論見と気づくには雨季までかからないだろう。

「礼節弁えるんなら、王都行きやめろや」
「そういうわけにはいかん」
「へいへい」

装備の励起音を塗りつぶすように、中型の魔獣の群れが吼える。じゃれ合いを止めて濁った眼を向けてくる姿は、皮肉なことに、会話を止めて構える俺達に似ていた。

■ ■

化け物退治をした俺達への賞賛ではなく、次代の英雄を称える熱狂を遠くに聴き流し、クラヴは岩鎧系魔獣の骸に腰掛け、ぼうと星を数えている。

「なぁ、クラヴ」

クラヴは王都へ行く。競技戦士としても魔獣討伐兵としても規格外の男は、異例の出世で王都挑戦を決めた。
俺はここに残る。相棒として、先輩として、かなり上手くやれているつもりだったが、俺には声はかからなかった。

「お前は最強の魔獣狩りになれ。最高のスタジアムスターになれ。王都で一番になれ」
「あぁ、そのつもり」
「そんで、数年か、十数年したら戻ってこい」
「引退しろって?」
「バカ言うな!」

俺は一頻りスタジアムの声を掻き消すほど大笑いしてから、戦闘開始前よりも獰猛にクラヴを睨む。

「お前が王都で最強になるまでに、俺はこのカグライを最強にする」
「はぁ?」
「『最強のカグライ・スタジアムに挑戦』するまで、せいぜい王都で研鑽してこい」

今度はクラヴが表情を崩した。呆気に取られて瞬きをして、それからひやりと得物に似た眼光。

「そのときはお前が撃ち抜いてくれよ、コグロ」
「お前が俺をぶった斬れるならな、クラヴ」

星が瞬き、風が俺達を撫で斬りして、人知れず俺達の第二幕が始まった。

つづく→【一日目:5年目のソロデビュー】

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