透はゆっくりと目を開く。透けた瞳は由香に引き寄せられた。寝ていても、視線を感じたのだろう。
その前の数秒間、由香の瞳は透の寝顔を映していた。透の、笑いじわや、いや、閉じている横長な目を見ていた。意味はなかったが、寝息も聞こえないほどに、見入っていた。
端正な顔立ち。由香は好きになった人の顔を、きまって綺麗な顔だと思う。透の寝顔に真剣にみとれながら、由香はふかい心のなかで波打つ表面だけで、好きになりたくないと思った。波が激しくなるのがわかる。本当はすでに、透のすべてに波打っていることは、まぁ、わかっている。昨夜となんら変わらない顔で心ごとふたをして、由香ももう一度、まぶたを下ろした。

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