生きたい。
紫、青、緑のレーザーが、客席の中央をめがけて落ちる、動線の光を見ながら思った。

生きたい。
初めて、心底、本気で思った。

サカナクションのボーカル、山口一郎さんはうつ病を告白している。
特集記事のインタビューで、休養中は朝から晩までベットから出られなかったと言っていた。
でも食べないと死んでしまうから、必死で携帯を持ちUberEATSを頼んでみるが、取りに行くのすらままならず、玄関先に頼んだ置き配が溜まる日々が続いた。重力が普通に生きていた時の200倍になった。
病気が治るかもしれないし、最後には死んでしまうかもしれない。どうかるか分からないけれど、この病気を公開しながら音楽を発信していくことだけは約束します。

私は、彼らの音楽を全身で浴びながら、このインタビューを思い出していた。
そうだ。死んでしまうかもしれないんだ。
鼻根に力が入る。
それを飲み込んで、何万人の視線の先で、ステージに立っている。
この人は何万人の人生を背負っている。彩っている。寄り添っている。沢山の人々をきっと、生き延ばしている。
なんて壮大な人なんだろう。
こんなにもたくさんのものを抱きかかえてそれでも、確かに立っている姿は、音楽を貫く姿は、果てしなく格好良かった。寸分の狂いもなく発生する調和の中であなたは、途方もなく、一人の人間だった。
そんなあなたも、もしかしたら今朝も やっとの思いでベットから起き上がったのかもしれない。
もう泣きそうだ。
今日がサカナクションを見る最後の日になるかもしれない。
そう思って、今目の前で起こっているすべての尊さに、視界がゆらぐ。
たまたま生きている日が重なったこと。今日を無事に迎えられて、彼らの音楽に立ち会えているかけがえのなさを、当たり前の奇跡を想った。
サカナクションと同じ時代に生きている人生を、途中で捨てなくてよかった。

今日が終わったら、死んでもいいと思っていた。帰り道で死んでもいい。そう思うと思っていた。
人生最高の日には、決まってそう思っていたから。
人生で初めての経験だった。
サカナクションが作る空間の中で私は、生きたいと思っていた。まるでもとからそうだったように。

生きたい。
生きていてよかった。

今まで生きてきて到達したことのない心の底、いや 魂の地から感じた。
生きていてよかった
思えば両親が亡くなってから、本気でそう思ったことがなかった。
生きていてよかった。
生きたい。
涙が出た。
幸福で、涙が出た。
嬉しくて、涙が出た。
友達がティッシュをくれて、もっと涙が出て、もっと幸福に思った。泣いていたらティッシュをくれる大好きな友達が隣に居てくれて、元気でいてね生きていてくれてありがとうって、いつも言ってくれるこの子の隣で、そう思えたことが、書いている今も涙を堪えている。嬉しかった。嬉しかった。

「このツアーをもって、サカナクションは生まれ変わります。ここから、始まります。」
病気と共に生きていくことを公開する決心をした山口さんが、笑うたび嬉しい。
「ありがとう」
「生きていてよかった」
身体いっぱいに叫んだら周りの観客に笑われたけれど、それでいい。
生きていてよかった。
これをあなたに、直接伝えることが出来てよかった。

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