アオイカノ

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春に縋る #創作大賞2022

 二十二時を三分過ぎても彼女は待ち合わせ場所に現れなかった。逃げられた、と春先のざらついた風に吹かれたような感覚になっていたが、幾度となく見た携帯のホーム画面から顔を上げた時に足早に駅の改札を通り抜けてこちらに向かってくる影を視界が捉えたので、明良は安堵していることを悟られないように作り笑いを向ける。カツカツとヒールが地面に響く音が近づいてきて、明良の元まで来て止まった。 「来てくれないかと思って、不安になっちゃったよ」  明良の言葉に、「ごめんなさい。遅くなっちゃって」と軽

    • 1995年の1月17日には阪神淡路大震災が起きたから。

       2022年に入って初めて読んだ本は村上春樹の1Q84 BOOK1 前編だった。そしてその次に森絵都の「この女」を読んだ。  1Q84 BOOK1 前編は「1Q84」という小説の一部分であり、BOOK1 前編を読み終わっていても「1Q84」を読み終わったとは言えないから、この森絵都の「この女」がわたしが2022年で初めて読み終わった本ということになる。  この小説の中で主に描かれているのは釜ヶ崎という土地で生きる人々の人生で、その釜ヶ崎という土地で繰り広げられている世界はコ

      • 前職のお客様

        ふと、前職のお客さんのことを思い出した。 前の会社から離れて、それなりの時間が経った。今は以前とは全く異なる仕事に携わっている。 前の会社でわたしは営業職だった。 営業職と言っても、飛び込みとか、新規開拓といった類のものではなくて、俗に言うルート営業という、多分営業職の中では生温いほうだった。 そして、相手にするお客さんはほとんどが士業の方で、詳しくは語れないが、だからお客さんのことは「◯◯先生」と呼ぶのが普通だった。 それはわたしの最終出社日まであと1週間という時期のこと

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