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もの思う空

おもひつつへにける年のかひやなきただあらましの夕暮れの空
後鳥羽院「新古今和歌集」

へにけるは、経にける。あらましは、あれこれ思い巡らすこと、ということらしいので、
思い続けて経過した年月の甲斐もなく、あれこれとこれからのことも思い巡らしている夕暮れですっというのが表向きの読み方かと思います。

新古今和歌集や後鳥羽院は重層的に和歌を詠んだということのようで、例えば、
『かひ』は甲斐と、昔の人たちが恋を忘れさせる呪力を持つと信じ和歌にも詠ってきた『貝』を重ね合わせ、その貝に縁のある渚とか波とか浦とかの言葉も受けるように解釈されるとのことです。

なので一方では、
「恋ごころの辛さから解放されようとして長いあひだに渚に忘れ貝を探し求めたのにそれもむなしくて、といふ裏とを持つ」(「後鳥羽院 第二版」丸谷才一 ちくま学芸文庫)という意味合いも持たせて詠んでいるんですね。

優美な和歌でしかも日本の文藝を確立した当時の歌人の方々や、それを統率した後鳥羽院ら先人にあらためて感服する次第です。

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