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MNTSQリーガル開発チームのあゆみ・苦闘の4年史

はじめに:リーガル開発チーム4年間の軌跡

MNTSQ(モンテスキュー)株式会社でリーガル開発サイドを担当している今泉です。

2018年11月に法人が成立し、12月に私が業務委託でお手伝いを開始してから、そして2019年6月に一人目正社員として入社してから約4年が経とうとしています。振り返ると一瞬の出来事だったなと思います。役員含めても5名しかいなかった四畳半のオフィスから、3回の移転を経て、4年で立派なオフィスに成長しました。従業員はいまや80名に届こうとしていますが、当初掲げていた理想は失われるどころか、新たな仲間を迎えてますます高まっていく一方です。

本稿では、当社の組織のなかでももっとも歴史の古い(高々4年ですが、スタートアップの4年はなかなかドラスティックでした)リーガルチームが、リーガルテック(※)の潮流の中でどのような変化に直面し、どのように変化し、現在どのようなことをやっているのかについて、読者のみなさまに知っていただきたいと思います。それは、端的に言えば、基本的に法律以外のことは何も知らない人たちがいきなりIT企業の開発やカスタマーサクセスに放り込まれる苦闘の歴史でした。以下ではMNTSQにおけるリーガルチームの役割の変遷を辿りつつ、試行錯誤の結果としての現在の我々のチームとしての到達点を示します。そして、さらにDX時代の法務パーソンのキャリア像について論じてみたいと思います。

※「リーガルテック」の語は、いまや一種のバズワードであり、日本では一般にAI契約書レビュー機能を意味する使い方をする人が多いですが、界隈に近しい人は電子締結、法律調査、契約書管理・CLM、e-フォレンジックなどの多様なサービスを含めて論じることが多いため、論者によって意味内容が変化する使いにくい語となっています。以下では基本的に後者(法務DXに取り組むプロダクト全般)を意味するとご理解ください。

内容としては3年前に書いたこのnoteのアップデートとなります。

この頃とは違った景色をお見せできると思いますのでご期待ください。想定読者は、企業法務の人、リーガルテックに興味がある人、Vertical SaaSのドメインエキスパートのあり方に興味がある人、そして本稿を通じて当社に興味を持ち、入社してくれるかもしれない人となります。最後に採用PRがありますが、記事内容自体に嘘・偽りはないのでご安心ください。

なお、リーガルテックにおける法務出身者のように、プロダクト開発において、当該アプリケーションが使用される業界に深く通じている人のことを一般にドメインエキスパートと呼びます。ドメインエキスパートの重要性一般についてはこちらの記事が参考になるため、リーガル開発チームの位置付けを理解したい方は一読をおすすめします。

ガッと書いたら7000字超の大作になったため、各章冒頭にChatGPTに要約させたサマリーを原文ママで掲載しておきます。普通に嘘が混じっているのでこれだけ読むのは危険ですが参考にしてください。

1.「パラリーガル」期:アノテーション部隊としてのリーガルチーム

MNTSQは、法律事務所向けに契約書の解析を効率化するプロダクトを開発していたが、NO&Tからの出資を受け、企業法務向けのデータベースシステム「MNTSQデータベース」の開発に取り組んだ。リーガルチームは4名で、法律事務所出身のパラリーガルがアノテーションとアルゴリズム開発を行っていた。具体的なプロダクトの方向性や導入方法については、リーガルチーム全員で必死に考えていた。

ChatGPT

当初は法律事務所向けに法務DDを効率化するプロダクトを開発していました(現「MNTSQ M&A」)。M&Aの対象会社(買収される企業)から受領した紙締結データを含む契約書を解析し、COC条項(支配権の変動等によって解除権等の効果が生じる条項)などの危険条項を抽出し、法務DDを担当する法律事務所や買収会社の便宜に供することが基本機能でした。
危険条項の抽出は、性質上法律的な判断が避けられないため、学習データ作成に法律知識が必要です。最初期は私と代表の板谷しかいなかったので、二人で頑張ってシコシコ条文データをアノテーション(ラベル付け。データにメタデータをつけてAIに食わせる)していました。プロダクト開発と並行して行い、アルゴリズムエンジニアと1年くらい精度向上に取り組んだ結果、人間の判断を優に上回る精度を出し、実際に長島・大野・常松法律事務所(NO&T)で利用していただくことができました(現在も利用されています)。

そして、NO&Tからの8億円の出資があってからは、これまで培ってきた契約書解析技術を活かして、「MNTSQデータベース(当時はまだMNTSQ for Enterpriseと読んでいました。法律事務所向けではなくエンタープライズ企業法務向けのデータベースシステムという意味です。現在では後述する「MNTSQ CLM」の基幹機能となっています)」の開発に取り組みました。

この頃のリーガルチームはそこそこ人が増え、代表を含めないで4名(うちリーガルに知見を持つ者が3名)でしたが、リーガルバックグラウンドを持つ者は私も含め全員法律事務所出身のパラリーガルでした。上記の通り、メイン業務がアノテーションとアルゴリズム開発で、法律が出来て、それ自体は地味であるアノテーションを淡々とできる人が必要でしたから、求人票も「パラリーガル」としていました。
この時点では「解析データとNO&Tからお借りしたナレッジを利用して企業法務を変革する」という方向性は見えていましたが、どのようなプロダクトであれば導入してもらえるのか、価値を感じてもらえるのかという具体の問題については、みんなで必死に考えていた記憶があります。

2.対面と開発の分離:新しい活躍領域の拡大

MNTSQ社のリーガルチームは、プロダクトが完成し、顧客とのタッチや導入実績が増え始めたころに8人に拡大したが、データセット作成のみの組織ではいられなくなり、リーガルコンサルタント(LC)とリーガルプロフェッショナル(LP)に分けられた。LCは対面タスクをメインとし、LPは開発タスクをメインとするが、厳密な区切りは設けず、職種の性質に応じた働き方がある。また、大企業でリーガルテックを導入する際、法務部や知財部が対応し、リーガルチームも自身がデータ分析の手法を身に着ける必要があり、検索体験の改善という新たなタスクも生まれた。

ChatGPT

実際にプロダクトが完成し、着実にお客様とのタッチや導入実績が増えてき始めたころ、リーガルバックグラウンドを持ったリーガルチームの規模は8名になっていました(法律事務所出身者だけでなく、企業法務出身者も増えています)。しかし、このころには既にデータセット作成だけやっていればいい組織ではいられなくなっています。

第一に、大企業でリーガルテックを導入しようとする際、我々の対面に出てくるのはほとんどの場合法務部または知財部(ごくまれにIT戦略部やDX推進部)であり、法律・法務に詳しくなければ答えに窮する場面がそれなりに登場することです。付言しておくと、当社のコンサルタントチームはみな優秀であり、プロジェクトの進行やジャイアントキリングな導入の手法については私も毎日彼らから学びを得ていますが、それでも法律の知識のある者と同じとはいきません。特に特定の業法関係の運用の話や、リーガルナレッジのマネジメントの話などでは、対面に立って、法務部のペインを理解して対等にコンサルティングする法務経験者が必要であることが認識されるようになりました。

第二に、実際に投入されたデータが正しく解析されているのかを調査する必要性が生じました。開発したモデルの精度検証は当然社内ですでに行っているのですが、契約書のユニバース(この世に存在する契約書全て)はとても広いので、「この会社のデータで精度が高くても、あの会社のデータに当てると精度が悪い」のはよくあることです。常に過学習(少ないデータに過剰適応している状態)している可能性を考慮して精度を上げていかなければなりません。この際、単にアノテーションするだけでなく、データ全体を分析し、どのような誤りの傾向があるかをリーガル目線でチェックする必要が生じてきました。ここで、リーガルチームも自身がデータ分析の手法を身に着ける必要が生じました。

第三に、データベース機能提供にあたって、検索体験の改善という新たなタスクが生まれました。法律畑の人間からすれば検索という「未知のドメイン」を理解し、リーガルドメイン知識をどう活かすかを検索エンジニアと運用を考えるところからスタートしました。

MNTSQの拡大に伴い役割が分化してきたリーガルチームを、ここで二つに分けました。
主に対面タスクをメインとする「リーガルコンサルタント(以下LC)
主に開発タスクをメインとする「リーガルプロフェッショナル(以下LP)
各人のwillや得意分野ですんなり決まりましたが、「開発と対面の健全なフィードバックサイクル」を回すために、厳密な区切りは設けないことにしました。すなわち、職種の性質としてはこれを分けるが、LC:LP = 3:7みたいな働き方をしている人も存在する、という状態です。

3.業務内容のカオス化――誰が何をやってるのかわからん!!!

LPは専門分化によって誰が何をしているか把握できなくなり、業務の冗長性が高まって不安定になっている。また、新入社員も自分がどのようなスキルを身につけて、どのようなキャリア像を目指すべきか不明確で、惑いが生じている。

ChatGPT

上記のように専門分化して生まれたLPですが、プロダクトの成長、複雑化とともに各自がそれぞれ未定義の業務に着手し、さらに専門性を深めていった結果、業務としては誰が何をやっているのか追えなくなってしまいました。他の人の業務を簡単にサポートできなくなり、冗長性という観点からも不安定となりました。

また、こうした状況では、せっかくMNTSQに興味をもって入社しても、①自分がどのようなスキルを身につければよいのか、②自分がどのようなキャリア像を目指せばいいのか、が不明確になり、新入社員が、自分が活躍する姿を思い描けず惑いが生じるという事態が生じました。

4.業務領域の類型化・体系化

業務の無秩序な拡大を解決するために、業務領域を類型化し、どの領域で知識が必要かを確認した。それぞれの領域には研鑽が必要であるが、スキルアップに取り組みやすくなった。①機能開発領域はアルゴリズム開発が中心であり、機械学習とプロダクトの理解が求められる。②データ分析領域は法学・法務ドメインの知識を利用してデータを分析し、RDBやSQL、データ分析の方法論、検索に関する知識が必要である。③要件定義・要求開発領域は企業法務に対する深い理解が必要であり、プロジェクトマネジメント能力やコラボレーション能力が重要である。④プロフェッショナルサービス領域は自動ドラフティングシステムやオーダーメイド解析を担当し、エンジニアリングスキルやプログラミング能力が必要である。

ChatGPT

無秩序に広がってしまった業務をそのまま属人的に任せておく状態はスケーリングの上でも不健全なので、以下のように業務領域を類型化することにしました。これはもっぱら業務オンボーディングの便宜のために行ったものでしたが、現在どのような領域において法律知識が求められているのかを見直す契機ともなりました。いずれも一般的な企業法務経験者が経験しないような業務なので一定の研鑽は必要なのですが、それぞれの領域についての見通しがよくなり、何を身につければよいのかが整理された結果、安心してスキルアップに取り組めるようになりました。

LP業務の全体像をまとめたときの図:本邦初公開

①機能開発領域

アルゴリズムやリーガルコンテンツの作成・開発を担当する領域です。
メインはもっぱらアルゴリズム開発であり、データセットの作成や精度検証をアルゴリズムエンジニアとともに伴走していきます。当該アルゴリズムが何を目的にどのような業務を改善するために存在すべきかを定義するところから行っています(データの作成やアノテーションも、定義に従った一貫性を持っている必要があります)。機械学習に対する造詣と、プロダクトや機能に対する一定の理解が求められます。

②データ分析領域

MNTSQに格納されているデータを、法学・法務ドメインの知識を利用して分析する領域です。データ分析自体にはもちろん専門家がいるわけですが、一定のドメイン知識がなければ気付かないことや洞察が求められる点について、問題を発見し仮説を提案することが求められています。
契約データ・利用データ・検索行動などが分析の対象で、RDBやSQLに関する基本的なスキル、データ分析の方法論、検索に関する一定の造詣が求められます。

③要件定義・要求開発領域

実装する機能について、ユーザー目線で必要な機能を定義する領域です。機能要件のとりまとめやユーザーのペインの言語化を通じて、エンジニア、プロダクトマネージャーやデザイナーとともに機能要件を具体化していきます。企業法務に対する深い理解を持つ人材が必要で、プロジェクトマネジメント能力やコラボレーション能力も重要です。コンサルティングチームやセールスチームが持ち帰る要望を集約する必要もあります。法務を経験していないメンバーにも理解してもらう必要があるため、ペインの言語化能力はとりわけ高いものが求められています。

④プロフェッショナルサービス領域

MNTSQ CLM上で展開されている一部コンサルティングサービス(自動ドラフティングシステム、オーダーメイド解析)を担当しています。自分でシステム上でプロダクトを作ることもあるため、エンジニアリングスキルやプログラミング能力が求められる点で特異です。また、ユーザーの方々に対し直接、要件ヒアリングやすり合わせを行うため対面トークスキルも必要となります。

5.業務Onboardingプログラムの作成

MNTSQの業務領域に合わせて、業務に慣れていくためのプログラムが作成された。このプログラムにより、新入社員や他の業務領域に進みたい人が、自律的に業務をこなすためのロードマップが作られた。

ChatGPT

また、上記の業務領域の分類に対応する形で、どのようにMNTSQの業務に慣れて頂くかを考えて、上図のようなプログラムを作成しました・これで、新しく入社した人や他の領域に踏み込んでいきたい人が、何をどうクリアしていけば自律的に動けるようになるのかのロードマップの枠組みができました。

さいごに:企業法務の未来に向けて

法律業界はAIによる効率化を求める必要性が高まっており、ChatGPTの登場によってその流れが加速すると予想される。しかし、法律業界はITに弱いため、法律業務とIT技術を架橋する存在が重要であり、リーガルテックのキャリアは一助になる。ただし、IT技術を覚える必要がある場合もあり、向き不向きはある。現在の企業法務の非効率さ・問題意識を持つ人にはお勧めの仕事となる。

ChatGPT

これまでの整理は、いずれも現在のMNTSQのプロダクト開発状況や提供サービスに対し最適化されたものなので、いずれも現時点の姿でしかありません。たとえば、上記の整理はChatGPT登場以前に行ったものなので、数か月後にはまったく別の姿になっている可能性もあります(ChatGPTの活用についてはすでに社内でプロトタイプの検討が始まっています)。
いわゆるGenerative AIについては具体的なサービスに組み込むまでにはクリアしなければならない技術的・法律的なハードルは高いと考えていますが、リーガルテックに従事している者に限らず、誰もがこの革新的なサービスを意識して仕事をしなければならない状況が生まれていると思います。

GoogleのBERT登場以降、自然言語を中心とした業務の代表格である法律業界はいわゆるAIによる効率化を意識せざるを得ない立場に置かれ、現在までに様々な取り組みが行われています。ChatGPTの登場によってこの流れはさらに加速するだろうと感じています(既に個人のエンジニアを含めて様々な試行錯誤が行われているのを観測しています)。
他方、法律業界は伝統的にITに弱く、これを使いこなしきれていないと感じています(既に多くのリーガルテックベンダーが存在する英米、とりわけ米国とは対照的です)。そのような状況下では、法律業務・法務業務とIT技術を架橋する存在であることはこれまで以上に価値を発揮するように思います。
この点、リーガルテックに身を置くことは、①法務・総務とは異なる形で、事業サイドで企業法務スキルを活かすことができること、②我々が業務領域を分類したように多様な活躍の仕方があること、③DX・AIの最先端に身を置くことができること、等の点においてキャリアの一助になるように思います。

もっとも、向き不向きはあると思います。あくまで企業法務を追究したい・法務という業務が好きという方にもお会いすることはありますし、IT企業なりに新しく覚えて頂く必要のある技術が一定あるのも事実です(開発用のシステムを揃える余裕のないスタートアップにおいてはなおさら妥当します)。
しかし、それでも、新しいものが好きだったり、現在の企業法務の非効率さ・イケてなさに問題意識を感じている方にはぜひお勧めしたいお仕事です。

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