パラリーガルから「リーガルエンジニア」へ リーガルテック元年に生まれた新しいキャリア?

こんにちは、うどっぴです。
本稿は法務系Advent Calendar 20日目の記事です。STORIAの杉浦健二先生(@kenjisugiura01)からのバトンとなります。

私は法律事務所でパラリーガルをやった後、リーガルテックベンチャーMNTSQ株式会社に入社し、主にプロダクトの法務部分を担当しています。
守秘義務的に書けることが絶無で途方に暮れていましたが、方針が決まったので書きます。

私がやっている仕事は、Wantedlyのフィードなどでも紹介をしていますが、今回は法務従事者の「もう一つの働き方」としての「リーガルエンジニア」(弊社でなんとなく命名しました)に、法務従事者のもう一つのキャリアルートを感じる気がするなあという話をします。

本稿では便宜のため、弁護士以外の法律事務所職員(法律事務所のパラリーガルで、司法書士、行政書士等有資格者を含む)および企業内法務担当者をあわせて「法務従事者」という概念で呼称します。(対義語として、法曹資格者を指す「法律家」という概念も使います)

1.法務従事者のキャリア総論

(1)法務従事者の特殊性
正直なところ、(特に転職経験のない)「法務従事者」は、他の法務従事者が何をやっているのかよく知らないし、どんな人がいるのかもよくわからない人が多いんじゃないかと思います。
五大法律事務所のような規模ならいざ知らず、中小企業・中小法律事務所の法務従事者では、そこでOJTで教えてもらうことが全てで、事務所・会社を超える横のつながりがあって知見を共有したりしているということはほぼないように思われます。そもそも、他社との交流はすべて弁護士同士で完結しますから、他の法律事務所の事務員や他企業の法務部との接点はほぼ生じません。

この点、同じロースクール、同じ修習などの同期のつながりができたり、弁護士会務等で顔を合わせることのある弁護士とは対照的です。また、インターネットや勉強会を通じて知見の共有に熱心なエンジニア界隈、CX界隈、デザイナー界隈とも対照的です。

人による程度の差はあるでしょうが、閉鎖性が高いのが法務従事者の特殊性と言えそうです。

上記の観点から見ると、法務系アドベントカレンダーのような催しは、他の法務担当者がどんなことを考えて業務に取り組んでいるのか等を知ることができる重要な機会であるといえます。(今年の記事は表も裏も全部読んでます。@kanegoontaさん本当にありがとうございます。)

(2)法務従事者のキャリアアップ
法律実務は資格がなければ自分でやれることがかなり制限される世界ですので、法務従事者はたいてい弁護士、司法書士、行政書士、弁理士、税理士その他の士業の資格を取ることを目標にします。
とはいえ、どれもそれなりに難関試験なので、全員が全員受かるというものではありません。また、どこかに所属して企業法務に従事する場合、資格は必須要件ではないので、そのまま中核を担う凄腕法務部員になる方もいっぱいいらっしゃいます。

資格によるキャリアアップを別にすると、法律実務への経験・見識を武器にして、マネジメント能力、英語能力なども身に着けつつ、同じ法務部界隈や法律事務所界隈を転々とするのがメインストリームということになると思います。

2.法務従事者が求められる新しい職業が生まれた

2019年は様々なリーガルテック企業が次から次へと登場した、まさにリーガルテック元年と言って差し支えない時代だと思います。

機械学習や自然言語処理技術の使用不使用に関わらず、業務の自動化・効率化、電子契約、法務ナレッジを蓄積するためのプラットフォーム、法律文書の電子アーカイブ化、自動翻訳などの様々なサービスが開発され、切磋琢磨しています。

2019年12月16日公開
めちゃくちゃいっぱいある

しかし、これらの企業も、ITエンジニアだけでは成立しません。法律家や法務従事者の手が入らなければ、法律的に全く誤りな、かつ利用者の目線を完全に無視した使えないプロダクトしか生まれないことは明らかです。

そこで、これらのリーガルプロダクトの開発を法務面から支える「リーガルエンジニア」が必要となってきます。

3.リーガルエンジニアとは

(1)意味
「リーガルエンジニア」という概念自体は弊社の軽口の中から生まれた造語です。軽口なので、あんまり真に受けないでほしいです。
本稿では「法務ITプロダクト開発に従事する法務従事者」くらいの意味で用いたいと思います。

(2)業務
弊社の場合、メインは契約書を分析したデータセットの作成と、プロダクトの仕様決定です(危険条項等の定義や判断基準の精緻化など)。
法律文書を自然言語処理にかけるためには、当該法律文書に意味づけ(アノテーション:メタデータの付与)をする必要があるのですが、けっこう膨大な数を、しかも正確な基準通りにこなさなければならない地道な作業です。にもかかわらず、法律文書のアノテーションには専門知識が必要で、誰にでも任せられる作業ではないので、自分がちまちま頑張らざるを得ません。

アノテーションの重要性についてはABEJAもこう仰っています

こう言うとひたすら地味な作業をしていると思われるかもしれませんが(まあしてるんですが)、とりわけ草創期の現在においては、現場レベルでの法務ナレッジの構造化自体を担っているという側面が強いです。弊社でも、条項の危険性やナレッジの整理の方法についてはリーガルチーム間で活発な議論が行われており、非常に面白い仕事をしていると思います。

ナレッジの集約に関する弊社の問題意識
四大法律事務所でも、アソシエイトは徒手空拳でM&Aに挑んでいる

(3)求められるスキル
法律的な能力はもちろん重要です。しかし、IT全般に対する知識もまた重要です。これはAIプロダクトの開発者の一員であるという側面に起因します。

Wantedlyの記事でも触れましたが、一般的な法律関係者はWord、Outlook、Internet Explorer、電話以外のアプリケーションを使う機会がほとんどありません。

(一太郎派はご着席下さい)

他方、リーガルテック企業は基本的にIT企業ですので、slackで連絡を取りますし、データの管理はG Suite、リポジトリの管理はGitHubで行います。
弊社は社内ルールも全部GitHubで管理されており、規程やルールを変更するときはpushし、全員がapproveするとmergeされる運用になっています。 

MacBookProでお茶運んでたらお盆買えばいいじゃんという真っ当な提案がissueで上がってきた回

コメント 2019-12-18 151942_LI (2)

これは本店移転登記が終わったときの私のpull request
アイコンはハンス・ケルゼン(好きなので)

また、弊社の法務DD支援プロダクト「MNTSQ」では、M&Aにおける危険条項を自動的に検出する機能があるのですが、この機能を良くしていくためには、法律的に危険かどうかという判断ができるだけでは不十分で、危険条項であることを判断させるためのロジックやコードをある程度理解し、AIエンジニアチームと密なコミュニケーションができなければなりません。
正規表現、TF-IDF、形態素解析、word2vecみたいな機械学習用語も、それらがどのような処理で何ができるのかくらいは最低限理解しなければいけませんし、バックエンドやフロントエンドの挙動もある程度抑えておかなければ話についていけません。話についていけないということは、プロダクトの改善に何ら寄与できないということです。

まあ私も特にITのバックグラウンドがあるわけではなく、弊社のお手伝いをするまでよくわかってなかったので、あまり偉そうなことは言えないです。なんなら今もよくわかっておらず、手探りでひたすらもがいているという感じですが、とにかく日々新しいことに取り組んでおり、めちゃくちゃ楽しんでいます。

4.キャリアとしてのリーガルエンジニア

(1)法務のIT化は急速に進んでいく
上記のような「リーガルエンジニア」の業務は、1.(2)で検討した通常の法務従事者が想定しているキャリアプランからすると、かなり異質です。法務に直接携わる機会をほぼ失うため、その先のキャリアを心配するのは自然なことです。

しかし、これは私見ですが、弊社に限らずリーガルテックのプロダクト群は確実に日本のこれからの法務実務の形を急速に変えていきます。そうすると、「リーガルエンジニア」という職業は現在まだ存在してはいないけれども、ただでさえ機械に疎い人間しかいない法律業界でITプロダクトの開発側に携わっていた経験は、それなりに稀有で汎用可能性が高い知見となるのではないかと考えています。

(2)既存の法務従事者にもリーガルエンジニアに興味を持ってほしい
また、1.(1)で法務従事者の閉鎖性について言及した伏線を回収すると、おそらくパラリーガルや法務担当者でリファラル転職した人はほとんどいないんじゃないかと思います(社外に同業の知り合いがいないから)。そして普通の転職エージェントなどを使うと、我々のような企業はあまり視界に入らないような気がします。なぜなら、通常の法務キャリアから外れるリスクのある選択だからです。

ですが、リーガルエンジニアは、その働き方という点でも、将来性という意味でも非常に面白い存在ではあると思いますので、キャリアの選択肢の一つとして考えても面白いんじゃないかと思っています。

5.おわりに

本稿は法律×ITの異常なスキルセットの仕事も楽しいよという記事でした。
あと手前味噌になりますが、MNTSQ株式会社は強い企業法務の人を大募集しておりますので、興味がありましたらぜひ気軽にコンタクトしてください。

次のアドベントカレンダーはZeLo(LegalForce)&Azitのみなみちか先生です。スタートアップ・リーガルテックの先輩なので明日の記事が楽しみです…!



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