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閉鎖病棟というこの世の闇

いつか何かのタイミングでこれは必ず文章にしようと思ってた。
こんな経験した人滅多にいないと思うから、こういう世界があるってことを知って欲しかった。

「閉鎖病棟」と言えば、あまりピンとこない人が多いと思う。
殊更わたしが入院していた閉鎖病棟は群を抜いて環境が良くなかった。
それでもわたしは恵まれていた。人に恵まれやすい才能がここでも発揮されたから。

閉鎖病棟は文字通り「閉鎖された病棟」であり、病院の外はもちろん、病棟の他のフロアに行くのにも制限があった。全部屋の窓に柵が張ってあって、ナースステーションや面会室などにも鍵が設置されていた。
症状が酷い人は個室に入れられ、まるで映画で見る刑務所みたいな部屋だった。
部屋の中に剥き出しのトイレがあって、部屋の一面には柵があって、柵越しに主治医が患者の話を聞いているのを見たことがある。
普段は鍵がかかっててその部屋には近付けないけど、週に2度のお風呂の時にその部屋の前を通るのに、いつも「ここから出して」という呻き声が聞こえていたのを覚えている。

限られた狭いスペースにさまざまな症状の人がいて、ほとんどの人が入院したら生涯そこで過ごすことになる。40年以上入院したままのおばちゃんとか当たり前にいて、介護や面倒見てくれる人や身寄りもいない人ばかりだったから、このまま隔離病棟の世界しか知らずに死んでいく人がほとんどだった。

わたしの場合はちょっとした自傷行為の行き過ぎで、救急搬送されたことが過去に3回ある。
どれもいわゆるOD(オーバードーズ)で致死に至ることはなかったけど、3度目の大量服薬で閉鎖病棟への入院が決まった。

わたしが入院した病棟はカーテンすらなく、入院してすぐは鉛筆と紙すら持たせてもらえなかった、持たせると危険だと思われてたから。
トイレの鍵もなかったから用を足してる最中に他の人が入ってくるなんてざらだった。トイレットペーパーは個々に配布され、使いすぎると看護師に叱られてた。
お風呂は週に2回、でも体調悪くて行けないともっと少ないので、気持ち悪くて水道で髪を洗ったりすることも珍しくなかった。
人権とか、プライバシーとか、一切なかった。治外法権みたいにその病棟のルールに則っていないと生きていけなかった。

いかに看護師に気に入られるか、いかに「普通の人」っぽくふるまえるかで、病棟での生きやすさが決まっていたから。

刑務所に入ったことはないけれど、まるで刑務所みたいだな、と思っていた。
毎日仕事を課されるだけ、刑務所の方がまだマシだったようにわたしには思えた。
毎日が苦痛でしかたがなかった。

それでもわたしが何とかそこを出られたのはひとえにナカムラさんのおかげだった。
唯一、あの病棟で「まともな人」だった。
わたしはこの人と友達になった。
60歳も年の離れた、わたしにとっては生涯かけがえのない友達だ。

いろんな話を一緒にしれくれた、おやつの時間も一緒に並んで、看護師さんに「おばあちゃんと孫みたいね」って言われるくらい仲良くしてくれてた。
一人称が「わし」で、髪も坊主で、ちょっぴり頑固だけど優しくて可愛いおばあちゃんだった。
わたしが先に退院したからその後の所在は分からないし、もしかしたらもう生きていないかもしれない。

わたしが今生きているのはもう二度と隔離病棟に入りたくないから。
あんな地獄みたいな日々が死ぬまで続くなら、いっそ死んでしまった方がましだ。

でもわたしは死ねないから。
こんなわたしでもたくさん好きでいてくれる人がいるのを知ってしまったから。

閉鎖病棟のことは知らずにいられるならその方が幸せなんだろうけど、病気や障害を抱えて、死ぬまで浮世を知らずにそこで暮らしてる人がいるっていうことをどうか知っていて欲しい。
偏見的な目はもちろんあると思う、こういった施設を狙った殺傷事件もあった、嫌われる気持ちも分かる。
それでもそこで生きる人には、そこが世界の全てだから。

こんなにも気の毒な人生もこの世界にはある。
病気になるなとか、障害が悪いとか、そういうことではなくて、病気や障害のせいで隔離病棟という日の目を見ない場所に追いやられた人たちがいて、そこでしか生きられない人たちがいる。

障害があっても懸命に生きられる環境にいられる人もいれば、家族から見放されて隔離病棟で生涯を過ごす人もいる。

何が良くて何が悪いとかはわたしには分からないけれど。

とても生きづらい現代だと思う。病気だろうとそうでなかろうと、この世界はとても生きづらい。
でも義務を果たしてこその権利っていうのは事実で、いわゆる「普通の暮らし」ができないとこの世界では生きてはいけないいんだなって分かった。

義務を手放して人権をなくされるくらいなら、この世界に必死に食らいついた方が圧倒的に生きやすいとわたしは思った。

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