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ホームスクール:発達的なアウトカム

Green-Hennessy, S. (2014). Homeschooled adolescents in the United States Developmental outcomes. Journal of Adolescence, 37(1), pp.441-449.
※これはメモです。翻訳したものではありません。引用箇所は筆者訳:〈〉
2024年7月30日

 Green-Hennessy(2014)の研究は、ホームスクールに肯定的な実証的研究の結果とは異なる結果を示した点で注目に値する。ホームスクーラーの学業成績でも触れたが、Brian, Rayに代表されるようなホームスクール推進派による実証的研究の結果は、一般化不可能な方法論的問題[1]が指摘されてきた(Kunzman & Gaither, 2020)。端的には、RayやRayに資金的支援を行うHSLDAらによる主張は、総じてホームスクールの肯定的成果(学業成績、発達的・社会的側面)が全面に示されていた。その意味で、Green-Hennessy(2014)は、社会化という側面から、宗教心の薄いホームスクールで学ぶ生徒に一定のリスクがあることを示唆しているのである。
 方法や分析結果について詳細は割愛するが、端的には、The National Survey on Drug Use and Health (NSDUH)〈全国薬物使用・健康調査(薬物乱用・精神衛生局2012)〉を一次資料とした分析を行っている(n=182,351)[2]。ホームスクールの判別には、「過去12か月間に、何らかの学校に通いましたか」で「はい」と答えた回答者は、従来の学校教育を受けた者として、「いいえ」と答えた者のうち、「過去12か月間に、ホームスクールを受けたことがありますか」に「はい」と回答した者をホームスクールを受けた者として分類している[3]。宗教性については、「過去12か月間に、何回宗教的礼拝に参加しましたか?」という質問で測定されている(Green-Hennessy, 2014: 443)。
 サンプルはホームスクールを受けているか否か、また、宗教的かどうかの4つのグループに分けられた。すなわち「宗教心が強いホームスクールの若者」「宗教心が薄いホームスクールの若者」「宗教心が強い従来型の学校に通う若者」「宗教心が薄い従来型の学校に通う若者」である。統計的な分析結果から、本研究は様々なことを明らかにしているが、端手に以下にまとめる(Green-Hennessy, 2014)。

  • 宗教心の薄い若者と比べ、宗教心の薄いホームスクーラーは、過去12か月間に課外活動に参加していないと報告する可能性が2.5倍高く、このグループの23.4%が孤立していた。対して、宗教心の強いホームスクーラーは、課外活動による孤立を報告する可能性が約60%低かった。(p.446)

  • ホームスクールの若者は、半数以上が、昨年の学校ベースの活動に参加している。(p.446)

  • 宗教心の強いホームスクーラーは、活動に差はあるが、4つのグループの中で引こうや薬物依存症になる可能性が最も低く、宗教的所属がこれら外在化行動にたいする緩衝材として機能していることが示唆される。(p.446)

  • 宗教心の薄いホームスクーラーは、同年齢に期待される学年レベルよりも2年以上遅れていると申告する可能性が2倍高い。しかし、このグループのホームスクーラーには、いわゆる「アンスクール」アプローチを採用する傾向が強く、この問題は彼らにとってそれほど重要ではない可能性がある。(p.446)

  • 宗教心の薄いホームスクーラーのグループは、宗教心の強いホームスクーラーよりも苦労しているようだった。宗教的帰属の度合いが同程度の従来の学校教育を受けた生徒よりも非行や薬物依存症になる可能性は高くないが、宗教心の薄いホームスクーラーの34.7%が、親が薬物乱用に対して緩い態度をとっていると回答し、18.2%は過去1年間に薬物乱用のメッセージを受け取っていない。両者は、将来的な薬物乱用のリスク増加との関連が認められている。(p.446)

  • 宗教心の薄いホームスクーラーの23.4%は前年に課外活動に参加しておらず、社会的孤立の懸念が生じている。(p.446)

  • ホームスクールの両グループは、程度の差はあるものの、期待される学年から遅れていると報告されている。困難がホームスクール自体にある可能性や、学校制度が子どもの教育ニーズを満たせなかったためにホームスクールを選んだ親がいる可能性もある。後者が事実である場合には、そうした子どもはホームスクールが始まる前から学業で苦労している可能性がある。(p.446)

 Green-Hennessyは研究の限界性として、ホームスクールを二分法で捉えていることに対して、近年の通学とのハイブリッドでのホームスクールの在り方が増えていることを、本研究の限界性として挙げている(p.447)。
 研究全体のまとめとしては、「宗教心の薄いホームスクーラーが学業面や社会面で困難を経験していること、また、後に薬物乱用のリスクが増加する可能性を示唆している」(p.447)とし、「ホームスクールの生徒が米国の学校が通常提供する一連の社会的・情緒的および学問的予防・介入サービスを受けるべきかどうかを検討することが有意味である可能性を示唆している」(p.447)。

[1]サンプルの抽出がHSLDAの会員を通して行われること、結果がホームスクールの成果を示すために用いられることが事前に約束されていたこと、サンプルが白人の比較的裕福で宗教的な家庭に偏っていること、などである(Kunzman & Gaither, 2020)。Rayの研究に対して、Gaitherはホームスクールでの学びがそうした家庭において学業上不利益にはならない、という解釈をしている(Gaither, 2012)。
[2]ホームスクールの研究においてこうした大規模なデータを得ることは通常難しく、そうした研究自体の数が限られている。こうした背景には、ホームスクールの規制法制が関係しており、すなわち、ホームスクールに対して登録義務や報告義務、アウトカムの評価義務などを課す州においては、ホームスクールの家庭の数やその他の統計的情報を州が把握していることになる。反対に、ホームスクール運動の成果として、登録義務といった規制が一切無い州においては、ホームスクールという教育活動それ自体がブラックボックス化しており、その数はおろか、実態を把握することは困難を極めるのである。つまり、ホームスクールに関する規制を無くしたとき、規制がない代わりに支援すらも受けることが困難な状況になる。ホームスクールの規制と支援(それに伴う実態把握も含め)は、部分的には、トレードオフの関係になってしまっている。
[3]本研究が分析の対象としてる統計調査が、ホームスクールを対象としたものではなく、若者の薬物乱用を測ることを目的としていることからも、ホームスクールかどうかの判定の情報が少ない。すなわち、Kunzman & Gaither(2020)が指摘するように、ホームスクールが学校との二分法で測られているおり、ホームスクールの継続期間や、学習内容を分析に含めることができていないのである。これに関連してか、サンプル全体に対するホームスクールの若者の割合は0.6%(n=1094)と、全国的な割合(3.4%)よりも大きく下回る割合を示している(Green-Hennessy, 2014: 443)。ただし、こうした限界性を有しながらも、Green-Hennessy(2014)が示唆的な統計的結果を導き出していることは言うまでもない。

文献一覧

Green-Hennessy, S. (2014). Homeschooled adolescents in the United States Developmental outcomes. Journal of Adolescence, 37(1), pp.441-449.
Kunzman, R., & Gaither, M. (2020). Homeschooling: An Update Comprehensive Survey of the Research. Other Education: The Journal of Educational Alternatives, 9(1), pp.253-336.

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