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人生の中で1番カップ麺が美味しく感じた瞬間のこと①ママチャリ大冒険はじまりの物語

雨の日は部屋に光が入らないせいか、朝は起きれないし日中はなんだかだるくてやる気も起きない。
進撃の巨人を見ながら雨がコト、コト、と窓の縁を叩くのを聴いていると、不思議と過去の美しい場面が思い浮かぶ。

「人生の中で1番カップ麺が美味しく感じた瞬間は?」
と、もし万が一聞かれたとしたら、その瞬間が美しい思い出とともに頭に浮かび、即答できる人は何人いるだろうか。

あれは、青春絶賛延長中であった大学3年生の秋のことである。
3週間の海外旅行で散財したわたしはクレジットカードの返済に追われ、ジャガイモ1袋で1週間食い繋がなければならなかった。

家のどこを探してもお金はない。
ましてや遊びに使うお金など毛頭ない。
しかし、2ヶ月に及ぶ夢のような大学生の夏休みはまだ続いていた。

「何かしたいね」とわたし、「何か青春っぽいことしたいね」と友達Y、「お金ないね」とわたし、「お金ないわ」と友達Y。
友達Yもお金がないのであった。

そこで、わたしと友達Yは知恵を絞りだすことにした。
考えろ、お金はなくても、何かあるはずだ。わたしたちが持っているものは何だ、考えろ。そうだ、時間がある。体力もある。あとは、、ママチャリがある!

こうしてわたしたちは、大学3年の夏休みに相応しい貧乏遊びとして、ママチャリ大冒険を選んだのであった。
かと言って、全くの自転車初心者である上に、普段している運動と言えば家から大学までの5分間自転車を乗り回すことくらいである。
不安だらけのわたしたちは、最初の目的地として片道1時間の温泉を目指すことにした。

決行の日、雲1つない快晴である。
装備はTシャツ、ジーパン、タオル、ママチャリ。
なぜジーパンなんだとは聞かないでくれ。
勢い良くペダルを漕ぎ出し、まだ見ぬ温泉と名物・もやしラーメンを夢見ながら若造たちは出発した。

1漕ぎ、もう1漕ぎとペダルを踏み込むたびに風が爽やかに吹いてくる。
住宅街を横目に進みながら、胸の内に広がる冒険への高揚感を共感し合った。
瞳の輝きは「衰え」という言葉を知らないとばかりに増していく。
そのうちに緑、黄緑の畑が両目いっぱいに映り込み、そして景色は森へと移っていった。

森に入れば目的地はすぐそこだった。少し坂を上がったところで、温泉に辿り着いた。
流れる汗が心地よく、片道1時間の旅なんて鼻で笑えるほど余裕だった。
温泉ともやしラーメンを堪能した後、帰り道をスイーと進み、あっと言う間に家の近くまで着いた。

ここまで来ると、全身の筋肉から控え目な悲鳴が聞こえ始め、特におしりに至っては刺されるように痛く深いダメージを追っていた。

「やったね」とわたし、「やったね」と友達Y。
「おしり痛くない?」とわたし、「うん、やばい」と友達Y。
お互い目を合わせて、ぷっと笑い合った。
「おしりの装備改善しよっか。」「そうしよう」
「じゃ、また明日ねー」と言って、ママチャリ大冒険の第1歩を踏み出したのであった。


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