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蕎麦畑

実家のすぐ隣には、大きな畑があり、祖父がたくさんの野菜や果物を育てていた。

とても几帳面な祖父は、いつも丁寧に土を耕し、まっすぐに支柱をたて、綺麗にビニールを張り、優しく種を蒔いていた。

いちご、アスパラ、トマト、ナス、きゅうり、ピーマン、パプリカ、じゃがいも、ズッキーニ、ゆうがお、ブルーベリー、ミョウガ、長ネギ、かぼちゃ、とうもろこし、たまねぎ、オクラ、大豆。

私は祖父の作る、とびきり美味しい新鮮な野菜たちをたくさん食べて育った。窓から畑一面が見える景色が当たり前で、手を伸ばせばすぐに作物を収穫できる環境がそばにあった。

3年ほど前、祖父が認知症になり畑作業が難しくなると、ずっと祖父の畑を手伝っていた祖母が畑を耕すようになった。祖母ひとりでは広すぎるので、育てる野菜の種類や畑の面積を減らしながら、それでも祖母は「なかなかおじいちゃんのようには上手くいかないわ」と笑いながら、祖父のやり方を受け継いで美味しい野菜を作り、私が帰省する度に採れたてを食べさせてくれた。

昨年の春、祖父が亡くなった。
祖母は、この年、畑で野菜を作らず、ほとんど手のかからない蕎麦を育てることに決めた。

私が夏に帰省すると、見慣れた畑には見慣れない蕎麦の芽が一面に出ていた。蕎麦の成長はとても早く、日を追うごとに背が高くなり、いつの間にか小さくて白い花をつけた。

花が咲いた蕎麦畑はとても綺麗だ。窓から蕎麦畑を眺めながら、もう祖父の畑がなくなってしまった気がして少し寂しくもなる。

祖父はとにかく優しくてあたたかい人だった。
蕎麦の花が風で揺れる度に、「蕎麦畑もなかなかいいなぁ」と照れながら笑う祖父の顔が思い浮かぶ。

今年の夏も、きっと畑では蕎麦がすくすく育っているだろう。
祖父の好きだったあんぱんを買って帰省しようと思う。




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