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レストラン感想 まつ久ら


概要

札幌の割烹を巡ってみよう企画第2弾はこちら、まつ久ら。

すすきのから徒歩で6分ほど、雑居ビルの地下にあります。僕はレストランを探す際は、主にゴ・エ・ミヨ、ミシュラン、食べログ百名店あたり使用しているのですが(信頼度としてはゴ・エ・ミヨ>>ミシュラン>越えられない壁>食べログみたいな感じ)、当店はいずれにおいても掲載されておりません。

ではなぜ訪れるに至ったかというと、僕は年に1回くらいのペースで京都旅行行ってるんですよね。で、京都行くとなるとやはり食事は和食中心になるわけです。そして訪れた割烹の中で和久傳が特に好きという印象を持ちました。そしてこちらの店主の方の修行先は、ずっと和久傳で腕を振るっていた方が店主を勤める木山。まあ即ち和久傳の孫みたいなものだろう、という阿呆みたいな考えで訪れることにしました。

にしても扉を開けてびっくり。店主の方がすごいお若い。別のお客との会話から分かったのですが、30歳と僕と同年齢でした。すげえ…。

料理内容

日本酒は好みを伝えると料理に合わせて持ってきてもらえます。とりあえず甘過ぎるのは苦手なので、それだけ伝えてあとは料理に合うものを、とお伝えしました。半合対応もして頂けます。細かい価格表はありませんでしたが、半合×3種類で2300円でした。1杯目は美丈夫生搾り。辛口でスッキリしながらも、フルーティーさと瑞々しさが感じられて美味しい。

先付けはタチの月光百合根の蕪蒸しに生姜入りの葛餡を掛けて、ワサビを乗っけたもの。初っ端から手が込んでおりテンションが上がる。トロッと滑らかで濃厚なタチと百合根のホクホク感の対比が楽しい。生姜の葛餡も厳しくなってきた寒さに嬉しい味わいです。

煮物椀は鮑と道産のなめこにゆめぴりかを散らしたもの。グニグニとした食感と磯の香りの鮑は当然に美味しいのですが、それ以上にナメコが心に残りました。ナメコに限らずキノコ類は風味が強いとエグみが出てくることがありますが、こちらは強い風味を保ちながら綺麗な味わい。

お造りはヒラメなのですが、これがちょっと衝撃的。お造りは他に比べ調理の余白は少ない皿だと思うのですが、こちらのはヒラメの肝を醤油とネギで和えて、それをヒラメで包むという手の込みよう。確か大工仕事の〇〇組?というのを参考にしたとのことですが忘れしてしまった。一般的な割烹のお造りと全く異なる味わいであり、鮨屋で出てくる肴のようで旨い。やっぱ肝って好きだなあ。

2杯目は雅楽代。これで「うたしろ」って読むんですって。読めねえ…。軽やかな味わいでした。

お造り第2弾。戻りカツオの藁焼きは店主の方が目の前でリアルタイムに焼いてくれます。こういうのあるからやはりカウンターは楽しいですね。換気いいため煙は気にならず。戻りカツオ、本来であれば旬過ぎてるのですが、今年は随分長く獲れてるらしいです。実際脂乗りが良くて旨かった。焼いた直後のため香りも最高。

こちらのお店では店主の修行先である木山に倣って鰹節を目の前で削ってくれます。左が鰹節、右がマグロ節。ところで初めて鰹節を削る瞬間を見たのですが、相当力必要なんですね。そういえば世界一硬い食べ物としてギネスに登録されてるんでしたっけ。いやー、本当にカウンターは楽しい。

まずは削りたてのマグロ節と鰹節をそのまま頂きます。マグロ節はまろやか味わいだなあといった感じだったのですが(馴染み無いから一般的なマグロ節と削りたてのマグロ節の違いがわからん)、鰹節は削りたての香り高さをビンビンに感じます。僕はアバウトな庶民舌なため、鰹節の方が好みでした。

そして今目の前で削った鰹節で引いたお出汁をそのまま頂きます。これは、旨い。香りについてはそのまま食べた時よりもふくよかになった印象です。驚いたのはその味わい。お出汁ってそれ単体で旨いのものでは無く調味することで初めてその旨さがわかるものという認識だったのですが、これは調味されていない状態でも旨かった。

椀物の前におしのぎ。春菊、椎茸、もって菊(他にも2種ほど構成要素あったはずだが忘れてしまった)の白あえ。一般的な白和えと異なり胡麻酢ベースの調味であり、本当にいちいち手が込んでいる。とりわけ春菊の苦味が調味と調和して美味と感じました。

さてお待ち兼ねの椀物。椀種は鮟鱇と京人参、芽ネギ。やはりお出汁が旨い。調味はかなり控えめに感じたのですが、全く物足りない感じはありません。むしろこれだけ旨いお出汁にしっかり調味してしまうのは冒涜かもしれません。僕は鮟鱇については肝はともかく身については価格ほどの価値は感じない人間なのですが(コイツ前回の店で河豚のお造り出た時も白子云々って同じようなこと言ってたな)、この鮟鱇は上品な旨味をしっかり感じることができて美味しかった。ただやはり椀物の主役はお出汁ですね。椀種と調味双方上品であるため、これだけしっかりしたお出汁でなければボヤけた印象を受けていたと思います。

3杯目は三井の寿。店主の方からスッキリしたものを勧められたので頂きました。僕は芳香な日本酒の方が好きなのですが、わざわざ勧めてくる辺り何らかの意図があるのだろうと考え乗っかりました。以前大辛口の日本酒いただいた際、やたらトゲトゲしく苦手だったのですが、そのようなことはなくスッキリしていて美味しかった。あれが偶々そういう銘柄だったのか体調でも悪かったのかなあ…。

まつ久ら芋。初代のスペシャリテとのこと。ポジションとしては何に分類されるんだろ。越冬させた男爵芋をバターで炊き込んだものであり、じゃが芋料理としては美味しいのですが、これまでの料理のように何かを感じることはできず。まあただ伝統の料理というのはそういう面があるので、仕方ないのかもしれません。ただ他の方は「懐かしい味」「北海道の味」と喜んでいたので、なんというか僕がこの料理のターゲットから乖離しているのが大きいのでしょう。それと先程スッキリした日本酒を勧められた理由がわかりました。確かにこれはそのような日本酒の方が合うでしょう。

焼き物は鰆の幽庵焼きにちぢみほうれん草のソースと和田牛蒡を揚げたもの。鮟鱇の時も思いましたが、魚の品質が高いですね。先の鮟鱇にせよ鰆にせよ、その魚介自体は一般的に淡白な味覚とされているのですが、どちらもその旨味が十分に伝わります。なんか特別な仕入ルートでもあるのかな。調理についても素晴らしくバリっとした焼き目とジュワっとした脂と旨味。甘味と苦味を携えたちぢみほうれん草も、大地の香りと香ばしさを携えた和田牛蒡も美味で鰆によく合います。和食は引き算の料理とよく言われますが、これに関しては足し算の料理という印象です。

クエの焼き物とクエから取った出汁でセリをしゃぶしゃぶにして葛餡にして掛けます。やはり魚自体が旨いですねえ。調味は今までの料理に比べて強めに感じました。普段であればある程度ハッキリした調味を好みますし、もちろんこの料理自体も美味しかったのですが、こちらはお出汁が旨いので、もうちょっと調味控えめで味わいたかったかもしれません。他方セリのことを考えるとこれくらい強い方が良さそうなので、料理って難しい。これもポジションが分からん。一般的に焼き物の後は炊き合わせだと思うのですが、どう見ても炊き合わせではないので、強肴になるのかなあ…。

締めは3種あり好きに選択できます。僕は大食いなので当然に全て。まずは鯖寿司。僕は鯖寿司という料理についてはかなり好きなので嬉しい。ただ以前祇園にしかわで頂いた鯖寿司があまりにも衝撃的な旨さであり、それ以降鯖寿司は好きではあるものの感動することはなかったのですが、久々に感動しました。つまりそれくらい旨い。まず驚きなのが鯖と米の比率。鯖が米の倍くらいあるんじゃないのかという良い意味狂った比率をしております。そしてやはり鯖自体が旨い。脂ジュクジュクであり、やっぱこの暴力的な旨さこそが鯖寿司の魅力だよなあ、と再認識。更に提供する直前に熱した木炭で香ばしさをプラス。これにより鯖のポーションと脂はかなりのものであるにも関わらず、クドさを一切感じさせません。いやあ、旨かった。

次に出てきたのは削ったばかりの鰹節と卵黄による卵かけご飯。やはり鰹節が香り高い。卵黄も濃くて美味しい。勿論ご飯自体も文句なしの美味しさ。

赤だしも美味しかった。赤だしの強い味わいと、大量のミョウガが実によく合う。

締めはラーメン。先に出たクエから取った出汁をスープに頂きます。これはまあ一般的な美味しさ。個人的にはこちらの拘りである鰹節のご飯で締める方が好みかですが、それはまあ人それぞれでしょう。

甘味は先付けにも出た月光百合根を茶巾絞りにしたもの(芯の部分は粒あん)と店主自ら点てて下さる抹茶。百合根につきましては先付けに出てきたものと同じですが、シンプルな分こちらの方がより百合根本来の味を楽しめます。
それにしてもしっかりと抹茶を出してくださるとは。菊乃井の方が「料亭は大人のアミューズメントパークである」(こちらは割烹ですけど)と仰っていましたが至言だと思います。そう、こういったところで食事するのって、主目的は勿論食事ですが、それだけじゃないんですよね。設だったり文化だったり、そう言ったものも含めて総合的に楽しみに来てるわけです。そのためこのようにしっかり文化面においても楽しませてくださるのは、とても嬉しくなります。
そのため客側もその辺りちゃんと知っておくべきでしょう。僕もそこまで詳しいわけではありませんが、「お菓子→お茶という順番」「飲む際は正面を避ける(回すのはそのため。正面の模様を亭主は客側に向けてくださるので)」「出された茶碗を楽しむ、そのため見る際にお抹茶が溢れないよう最後スッとお抹茶を啜る」くらいは知った上で臨んだ方がいいな、と他の方を見て思いました。正直あれでは店主の方が気の毒である。

総評

以上のお料理が税込18000円。サービス料はかかりません。
いやあ、旨かった。全体を通して手が込んだ料理が続き、いずれの品も間違いない美味しさ。素材も調味もいずれもレベルが高い。しかもその料理を休祝日では昼夜2回転ですからね。頭が下がる思いです。これで自分と同じ年齢なんてとんでもないなあ…。
しかしやはり一番はお出汁ですね。天ぷら 成でもお出汁が旨いと感じましたが、やはり京都で修行した方のお出汁は旨いなあ…と感じました。北海道の食材を積極的に取り入れているのも好印象。

最初に書いた通り当店はゴ・エ・ミヨなどに掲載されてないのですが、この店を掲載しないとかちょっと信用度が下がりましたね。本当にそれくらい美味しかったです。いや、本当に何でだ…?

現在季節ごとに訪れる和食店を見つけるために札幌の割烹いくつか回りたいな、ということで既にいくつか予約を取っているのですが、ちょっと早まったかもしれません。2店目にして早々に気に入った割烹が見つかったという嬉しい誤算。
まあ個人的に予約キャンセルはキャンセル料の有無に関わらずしたくないので、予約した分は行くのですが。何より近い時期にお店を回ると、出てくる食材がある程度被る関係上、よりお店ごとの特色が分かり凄く楽しいんですよね。出費と摂取カロリーを気にしなければ更に楽しい。

ただ…これは当店には何ら責任はないのですが、客の1人が最悪に近いジジイでしたね…。うるさいし、やたら店の方には絡んでるし、終いには従業員の方に「セーラー服を」というセクハラ発言。あまりに不愉快すぎてその瞬間に席を立ってしまった。本当ならもっと店主の方のお料理の話聞きたかったのですが…。普段からそうなのか、店主の方が若いから舐めてるのか。
同じ空間にいる客としては毅然とした対応を取ってほしいのですが、まあ実際のところ難しいのでしょう。僕も同じ立場なら出来ませんしね。注意しようものなら逆上したり、周りに有る事無い事広めそうなですし。

とまあマジでお店側に1mmも責任がないとこで不愉快な思いをしたものの、その部分以外は大満足です。もしかしたら今予約している店から更に自身の好みに合う店があるかもしれませんが、また春に訪れる可能性が高そう。その際は今回のような客と会うことを回避するために、昼にしようかな。最初昼夜同じメニューと知った際は珍しいなー、と思ったものですが、今となっては凄くありがたいですね。昼はあまりお酒は摂取しないようにしてるのですが、こちらは有料の緑茶もあるので、変に気まずい思いすることもありませんし。

ご馳走様でした。
恐らくですが、また違う季節にお邪魔することになると思います。


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