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紫乃と美甘の読書会 第1回「自己紹介がわりの本」

このnoteはTwitterスペースで隔週開催している紫乃と美甘樹々による読書会の紫乃側のログです。本日は第一回目、テーマ「自己紹介がわりの本」でお話ししたことをまとめています。
読書会はSpotifyからもお聴きいただけます。
詳細はこの記事の下部に。

“自己紹介がわりの本”というものが苦手だ。
なんてったって私は毎日の通勤に2冊本を持っていき(途中で読み終わっちゃうかもしれないから)、ちょっとした旅には5冊くらい持っていってその倍の量を持って帰ってくる人間である。

13年来の親友である美甘と読書会を始めることになったは良いものの、初っ端からテーマに頭を抱えてしまった。しかも、「自己紹介がわりの本について話そうよ!」と言ったのは私な気もするので、自業自得だ。
そんなわけで3日間くらい悩んで出したのが、この5冊。

  1. 子どもたちは夜と遊ぶ(辻村深月)

  2. 双頭の悪魔(有栖川有栖)

  3. 乱反射(小島なお)

  4. A子さんの恋人(近藤聡乃)

  5. ハチミツとクローバー(羽海野チカ)

おそらく私がこの日紹介した5冊も、1年後にはいくつか入れ替わっているものがあるだろう。もはや半年後に聞いたら全然違う本の話をしているかもしれない。
とりあえず今日の時点での私の自己紹介の5冊ということで、お話ししていこう。

(紫乃と美甘の読書会 第一回のspotifyはこちらから)

1冊目『子どもたちは夜と遊ぶ』辻村深月

散々前置きをしたところ、いきなりひっくり返してしまうが、これだけはきっと10年先も50年先も変わらないだろう私の自己紹介の一冊だ。なんなら10年前から変わらない。

おそらく私のTwitterをフォローしてくれる方やリアルの知り合いの方は十分過ぎるほど知ってくれていると思うが、辻村深月さんは私が世界一好きな作家さんだ。
すべての作品が大好きで、思い出もたくさんあって、それでも私は一番大切な作品を挙げろと言われたら迷わずこの一冊をあげると思う。

同じ大学に通う孤塚、浅葱、そして月子。3人の関係はある不可解な連続殺人と絡み合っていき……。
何度読んでも「彼らはこうなるしかなかったのだろうか」と考えられずにはいられない、苦しい物語だ。

私がこの本を大好きなのは、この物語が愛の話だからだと思う。少しずつすれ違って、それが決定的に間違った方向へと向かうけれど、それでも誰かが誰かのことをひたむきに愛している話なのだ(ここでの愛は恋や性愛に限定しない)。
見返りはないかもしれない、知られなくてもいい、それでもその人のために何かをすること。そういうととても綺麗なものに聞こえるけれど、それは綺麗なものだけじゃないこともちゃんと書いている。

特に私が好きなのが月子で、私がとうに彼女の年齢を超えてしまった今も、月子は私の憧れの人物だ。
彼女は見ず知らずの誰かの痛みをちゃんと考えることができて、ちゃんと行動ができるひとだ。他人の痛みを消費するのではなく向き合うことができるところが、最初に出会った時からずっと私の理想だなあと思う。
いつも私はこの本を大好きな人たちに読んでもらいたくてつい押し付けてしまう。それは私が大切にしていることや理想像がこの本によって形作られていると感じるからだ。

とにかくいろんな人に読んでほしい。きっとあなたの心の大切な場所に触れる本だと思う。

2冊目『双頭の悪魔』有栖川有栖

物心ついた時からミステリが好きだ。はやみねかおるさんの夢水清志郎シリーズなどで土台を作りつつ、父の本棚で出会った有栖川有栖さんが私をミステリ沼に引き入れた。

有栖川有栖さんは自身の筆名でもある“有栖川有栖”という名前のキャラクターが登場するシリーズを2つ書いている。
そのうちのひとつがこの『双頭の悪魔』を含む江神二郎シリーズだ。火村英生シリーズもめちゃくちゃに好きなのだが、単体で一番好きな作品を聞かれるとやはりこの本が浮かぶ。
シリーズ3作目の本書は、アリスの所属する英都大学推理小説研究会のひとり、マリアがある村に行ったところから始まる。前作で心に傷を負った彼女はその村から戻って来ず、彼女の親に頼まれた推理研のメンバーはマリアを連れ戻しに向かうのだが……。
これまで江神さんが基本的に探偵役を担ってきたところを、江神さんと分断されてしまった語り部であるアリス(+先輩の織田と望月)も探偵となるところもこの本の見どころだ。

この本はふたつの村で起きたそれぞれの事件が絡み合い始め、その真相は姿を見せたかと思いきやすぐに隠れてしまう。
ものすごくトリックが派手というわけではないのだけど、それでもめちゃくちゃ続きが気になる、ドキドキする謎でミステリファンには絶対に読んで欲しい。

このシリーズを読むとなんだか私も英都大学推理小説研究会の一員であるような気持ちになる。
車の中でのミステリ談義、江神さんの吸うキャビンの香りがなぜか懐かしいような気がする。
あと2冊でシリーズ完結と聞いたことがあるけど、かならず見届けてから死にたいし、完結したらめちゃくちゃ寂しいだろうな……。

3冊目『乱反射』小島なお

小島なおさんの詠む歌には質感がある。
歌を読むと、その詠み手が見ていた世界の色や香りが感じ取れるような気がしてくる。

私は短歌が好きだ。中学生の時に確か授業で習って興味を持ち、ベタに俵万智さんや穂村弘さんの歌を読んでいたところに出会ったのがこの『乱反射』という本だった。
小島なおさんは18歳の時に角川短歌賞を受賞し、この本でデビューした歌人だ。
この歌集に収録されている短歌はいずれも17〜20歳の時に小島さんが詠んでいたものということで、当時の私にとってはとても馴染みがある光景を詠んでいるものが多かった。

まず、もう一首目から引き込まれてしまう。

こころとは脳の内部にあるという倫理の先生の目の奥の空
小島なお『乱反射』「目の奥の空」より

タイトルの影響もあるけれど、小島さんの歌はレンズを通して何かを見抜こうと考えているようなものが多い気がする。
ふとした時の気持ちや感覚から世界や自分が何なのかを捉えようとしている感じが私はとても好きなのだと思う。

「今はもう買えないから絶対どこかで見かけたら買ってください」と言っていたら、書肆侃々房さんが復刊してくれるとのニュースがあった。
絶対にみなさん買ってください。私はサイン本を予約しました。

▼今度刊行される方

▼私が今持ってる方

4冊目『A子さんの恋人』近藤聡乃

これはまた別途書くので割愛!
とにかくまだ読んでない人には読んで欲しいし、私も人生の中でパートナーについて考えた時には必ず読み返す。し、私がもしも人生で誰かと生きることを決めた時はこの漫画の結末のような形が良いなと思っている。
この本は美甘と一緒にお出かけしていて出会った本なので、美甘との大切な思い出の本でもある。

5冊目『ハチミツとクローバー』羽海野チカ

落ち込んだ時、かなしい時、もやもやが止まらない時、そういう時私は必ずちょっといい入浴剤を買ってお風呂に入り、ご飯をしっかり食べる。
そういう考え方が身についたのは、『ハチミツとクローバー』を読んだからだと思う。
中学の時にこの漫画に出会って以来、私にとってとても大切な物語の一つだ。

この漫画は美大生たちを描いた少女漫画で、そこには彼/彼女らの恋愛模様もあれば創作の葛藤なども描いている。
主人公がヒロインのはぐみに恋をする様子もありつつ、自分自身がどう生きるか、自分の才能への焦りなどが痛いくらいに伝わってくる。
全員思わず好きになってしまうようなキャラクターなのだけど、私がその中でも好きなのが山田あゆみ、通称あゆだ。

あゆは同期の真山にかなり無理めな恋をしている。はっきり言葉に出して振られてからも、彼女は真山のことを諦めることができない。
自分から真山が他の人のことを好きな様子を直接見なければならない状況に自分を置いたりもする。

見ていて痛々しいほどの想いを抱えながらも、あゆみはしっかりとご飯を食べ、きちんと眠り、生きてゆく。
折れてしまうのは時に簡単だと思う。苦しさにかまけて全てを投げ出したくなる時もあるけど、私はそんなあゆみの姿勢に憧れた。

人に恋する気持ちがたまにすごく独りよがりだということもちゃんと描いてくれているところも好きなポイントだ。
ちなみに4月14日まで無料公開してるのでまだお読みでない方は是非読んでほしい。

▼無料公開はこちらから


以上、長くなってしまったが私の「自己紹介がわりの本」でした!
もっと色々紹介したい本はあるのでまた定期的にできたら良いな〜。

次回、第二回の読書会ログのテーマはヤマシタトモコさん『違国日記』です。お楽しみに!

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