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心失すとき(4)


実家へ着くと人がいるにも関わらず

冷たい空気の流れる静かな空間となっていた


泣き声も聞こえない
物音もしない

ただ静かな空間


私と娘は2人で普段と変わらないように
何事も無かったかのように話をして
父も妹も妹の子供も食べたくないという買ってきたお弁当を
普段通りに食べた

よく似るものだ

こういう時に明るくしなくてはいけない
暗くしたくない

そう娘も思い
その結果の行動だろう


それをきっかけにして、みんなで話が始まる


私と妹は、母が帰ってきたときに寝かす布団を買いに出る

『こんな柄は嫌よって言いそうだねー』

『あ、はば好きそうだね、これ』

『こっちも買ってっちゃう?』

それはまるで、買い物に来た娘が
母にお土産かプレゼントを選ぶような
そんな光景だっただろう

実際、私たちは

『これ、いいじゃない』

そう、母が言ってくれるような感覚で
母の帰りを待っていた


23時になるかというとき
警察から連絡が入る

24時過ぎに終わるので立会いをお願いしたいとのことで
妹と2人で向かう


警察署の裏手

小さなプレハブのような建物

ストレッチャーに乗せられた母


扉から少しだけ覗けた


身体を動かされる
布を無造作にかけられる


それを眺めながら涙がまたこぼれた


ねぇ、人なんだよ?
もっと優しく動かしてよ
もっと丁寧に扱ってよ

警察の人と手続きや母の持ち物の返却などを済ませ
母と実家へ戻る


実家に戻ると、さすがに子供たちは寝ていた
リビングで服のまま

『ばば、帰ってきたよ』

声をかけて子供たちを起こす


まるで本当に寝ているかのような
普段通りの寝顔の母

妹の子供はそばで大泣きした
泣いて、泣いて
妹に抱きしめられながらリビングへ戻る


娘は黙ったままその光景を見て
誰もいなくなった母の隣に横になった

普段泊まりで預けている時
そうやって母の隣で、母のほうを向き
いつものように横になった

そしてひと言も発することなく

母のほうを向き、泣いていた
静かに、声もあげずに泣いていた


そのままそこで朝まで眠った




*過去に書いたものになります

続き↓

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