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肉を食べることと、正しさについて

「肉を食べるを考える|正しさとは何か」というコラムを、坂ノ途中Webの連載企画「考える食卓・おいしい未来」にて書きました。

いつかちゃんと言葉にしなければと思いながら、ずっと心の中に眠らせていた、牛を殺して食べた記憶。3年の年月を経て、ようやく世に出すことができました。

このnoteでは、コラムの中で書ききれなかった、肉を食べることをめぐる「正しさ」について倫理学的観点から考えていければと思います。

なお、資料は「食と農のもやもやゼミ」という、私が友人と主催しているオンライン勉強会の第5回「動物の命を食べるということ 前編」で使用したものです。

また内容は、私が留学中に食倫理の授業で使用していた『Food, Ethics, and Society: An Introductory Text with Readings』という書籍を参考にまとめています。

私も勉強中の身なので、もし内容について不備があれば、Twitterのメッセージなどで教えていただけますと幸いです。

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それでは、内容に入ります。まず肉食の倫理について考えるにあたって、倫理学の枠組み、その中でも規範倫理学という学問領域について解説していきます。

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なかでも、肉食の倫理を考えるにあたってよく用いられる、功利主義と義務論の考え方は以下のとおりです。

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ここからは、家畜動物に対する考え方について、主要と考えられる3つの姿勢をそれぞれみていきます。なお、ここでは「animal farming」の日本語訳として「畜産」という言葉を用いています。

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ピーター・シンガーさんは、肉食の倫理を語る際には真っ先に名前があげられる哲学者でしょう。著書『動物の解放』は1975年に出版され、世界中の多くの人に衝撃を与えました。

ピーター・シンガーさんが功利主義にもとづく「動物解放論」を展開したのに対し、トム・レーガンさんは義務論の立場から「動物の権利(Animal Rights)」を主張しました。

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今度は逆に、畜産を肯定する主張をみてみましょう。

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同じ功利主義の立場であっても、ピーター・シンガーさんのように肉食を否定する人もいれば、肉食を肯定する人もいるのです。

また「畜産」と一口に言っても、そのやり方はさまざま。以下の図は、鶏卵の生産方法についての絵です。欧米でよく見かける「Cage Free / ケージフリー」「Free Range / フリーレンジ」「Pastured / パスチャード(あるいはPasture Raised / パスチャー・レイズド)」という言葉の違いについて解説しています。

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このように、動物への配慮をしていれば畜産は認められるとする主張を紹介します。

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ここからは、ヴィーガン・ベジタリアンについての反論もみていきます。

なお「ベジタリアン農業」「ヴィーガン農業」という言葉は、『Food, Ethics, and Society: An Introductory Text with Readings』でそれぞれ「vegetarian farming」「vegan farming」という言葉で表現されていたものを直訳しています。

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(※上記の部分に関して末尾に追記をしています。)

ここからは私の感想です。ここまで肉食についての議論を追ってきましたが、私は「肉食の善悪はただ一つに決められない」と改めて感じました。

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National Geographicのこちらの図がわかりやすいのですが、食行動に関する主義はこれだけ多様です。この図は、人によってそれぞれ異なる正しさがあるということをそのまま表していると思います。

正しさは1つでも2つでもなく複数同時に存在しうるものであり、また時間的・空間的な条件によっても変化していくものなのでしょう。

食と農のもやもやゼミの中で「正義の反対はまた別の正義」という言葉が出ましたが、私は「反対」という概念すら実は存在していないのかもしれないという気さえしています。ある正義は永遠普遍のものとして存在し常に他の正義と相反するものではなく、ときに近づき重なり合い、ときに激しくぶつかり合い、変化・進化しつづけるものなのではないか、そういう捉え方もいいんじゃないかな、と思ったりするのです。

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ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

繰り返しですが、私も勉強中の身なので、もし内容について不備があれば教えていただけますと幸いです。

なお、坂ノ途中Webサイト内で「考える食卓・おいしい未来」というコラムを連載しているので、もしご興味を持っていただけたら他の記事ものぞいてもらえると嬉しいです。

(2020/11/09 00:19 追記)
「ベジタリアン・ヴィーガン農業への反論」としていくつかの論を挙げましたが、これらの主張をしている人たちも、ベジタリアンやヴィーガンの方々がこのことに気づいていないと言っているわけではありません。
「ヴィーガンを実践する人も、全く動物の命を奪わない食べ方ができると思っているわけではないが、それでもできることをという考えで実践されているのでは」という趣旨のご指摘をいただきましたので、補足させていただきます。

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