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森の生態系を紐解く山歩き

「いよいよ冬支度やな」
朝起きてまずすることは、かじかむ手でストーブのスイッチを入れること。

寒さの厳しい飛騨地方では、朝晩の冷え込みが本格化してきた。
冬支度も本格化する。こたつを出し、備え付けのガスストーブの試し炊きをし、灯油をガソリンスタンドに注文する。電気毛布をだす。

祖母が元気だったころは、柿や大根を干し、赤かぶを甘酢に漬け、新米のもち米で豆餅をつくといった保存食の準備をしていた記憶がある。

山間部の10月の朝の気温は、5度を下回る。吐く息は真っ白だ。
朝6時過ぎ、わたしは五色ヶ原国立公園に車を走らせる。

積雪があったのか、遠くに望む穂高や焼岳の山肌は真っ白だ。

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五色ヶ原とは

高山市内から車を走らせること30分、朴ノ木平を過ぎ、平湯温泉の手前あたりの乗鞍山麓にこの五色ヶ原はある。

五色ヶ原は、ガイドさんとの同行入山が義務付けられている国立公園で、半日から1日かけてガイドさんと共に山を歩く。

GW明けの5月中旬から10月下旬のみオープン。おすすめは「シラビソコース」、半日なら「久手御越滝(くてみこしたき)コース」冬期は閉鎖されている。

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ガイドさんと森に入る素晴らしさ

わたしが何度もここを訪れる理由は、手つかずの自然の素晴らしさに感動するだけではなく、ガイドさんの山の知識、時にはその人の生き方に魅せられるからだ。

鳥の知識が豊富な方、キノコが得意な方、花や植物、山の生態系、地層、土地の歴史など、ガイドさんによって、得意分野が異なり、毎回違う話を聞くことができる。

前回シラビソコースに参加した時のガイドさんは、鳥に大変詳しい方で、鳥の声が聞こえるたびに足を止め「あ、この声。何の鳥だか分かりますか?」「なんて言ってると思います?」と何の鳥のどういうメッセージの鳴き声なのか、詳細に解説してくださった。

4-5時間も山を歩いていると、「あ、仲間を呼んでいるな?」「何かおいしい食べ物でも見つけたかな?」と鳥の会話が分かったような気になって、鳥の声と共に散策する国立公園はとても楽しかった。

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森の生態系

今回もとても興味深い森の生態系の話を聞いた。
例えば、ドングリの木。ドングリは、毎年ほぼ一定の数の実をつける。
ただ4~5年に一度、例年より多くの実をつける年がある。

なぜか。
子孫を残すためだ。

ドングリの実を食べる周りの動物は、例年の一定の実の量を期待して生態系が成り立っている。そこにいつもより多いドングリの実が落ちてきても、食べきれない。そこで、食べきれなかったドングリの実が残る。

残った実から芽が出て、森に根付き、育つ。
そうやってドングリは子孫を後世に確実に残していると。

当たり前のことなのかもしれないけれど、こうやって改めて聞くと、肉眼では見えない菌や土壌の話から、生態系の維持という壮大な物語を持つ森や山には、ひれ伏すほどの感動がある。

この生態系を維持する生物の協働、そして自然界で淘汰され、残るものだけが残っていく厳しさ。。。

色んな植物が自生している自然の中を歩いていると、根元から根こそぎひっくり返っている木、朽ちていくもの、苔が生して新たな生命の土台となっているもの、様々な命の交換を目の当たりにする。

いくつか湧き水のスポットがあるのだけれど、火山の地層から湧き出る湧き水と山葵の群生を伝って流れてくる湧き水では、水の柔らかさや味わいが全く異なるのも発見だった。

次回は「ガイドさんに土壌と水について聞いてみようかな」とか知りたいことが尽きないので、五色ヶ原通いがやめられない。

春に訪れるのも、梅雨時期に訪れるのも、真夏に涼みに訪れるのも、紅葉や積雪が一気に押し寄せる秋に滑り込むのも、いつ訪れてもその時々の自然との対話は何一つ同じものがない。

自然は美しく、偉大だ。

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