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tadaima

夕暮れ時
人々はそそくさと商店街を通り抜けていく
遮断機の甲高い音が遠くから響き
電車がガタゴト通り過ぎていく
私は時計を確認し
足早に駅へと歩を進める
駅舎の階段を駆け上がり
改札口の電光掲示板の時刻に安心すると
ゆっくりとプラットフォームへと降りた
線路を眺めながら
どこからともなく漂ってくる
醤油の香りを感じつつ
薄紅色の空を見上げる
済んだ空に カラスが鳴き
黒い電線が横に流れていく
冷たく暗い ものさびしいかの国の秋は
そこにはなかった
暖かく優しい秋の空気が私を包み込む
時刻通りにやってくる電車に乗り込み
静かで落ち着いた車内で
つり革をつかみ揺られていると
延々と続く背の低い家々が目に入り、
えもいわれぬ安堵を感じる
あぁ私は故郷に帰ってきたのだ


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