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アスパラ・へそ・薬・サメ・夢

20時12分のスーパーマーケットで、ヘンちゃんはバナナについていた値段シールを剥がして、ホワイトアスパラガスの袋に貼りつけた。私が目を見開いて顔を覗き込むと、彼は天使のように微笑んで、学生が生き延びるための正当な値引きだよアスパラガスは高い、と言った。

値引きされたアスパラガスはするりとセルフレジを通過し、美味しいスープになった。

高校の教室で、クラスメートのユカちゃんが私の目の前で足を広げた。パンツを履いていなくて、なんならスカートも履いていなくて、出産する妊婦さんみたいな格好をして小さくて硬い椅子に座っていた。いきむ様子もなく、股の間からぬるぬると小さい人間が少しずつ出てきた。とろり。私は臍の緒を切った。

生まれた小さい人間は、いつの間にか12歳くらいの少年になっていた。私はそれを抱きしめていた。うなじしか見えないけれど、その温かさと匂いで、私はそれが自分の子供だとわかっていた。父親はいない。単為生殖をしたのだ。そしてユカちゃんが産んでくれた。愛おしさでいっぱいだった。きみがこれから世界を見ていくのよ、と思った。思っただけで何も言わなかった。ずっと抱きしめていた。

カフェでオーガスティンと会った。先週学校で首を吊って死んだ学生のことを話した。どうやってやり過ごしてた?気持ち的に、大丈夫だった?と彼が聞いたので、そういうこともあるだろうなと思った、と私は答えた。彼は笑って、あんたのそういう暗くて冷たいとこ好きよ、と言った。それから、共通の友人のこと、自殺、薬、作品、展覧会、フライトの予定などの話をして、別れた。

人がたくさんいた。白く発光しているその人が、私の決められたパートナーみたいで、私は最初は嫌な口を聞いていたのだけど、多分何かが色々あって、その人を愛おしく思うようになった。私は赤いリュックを背負って立ったまま、その人と話してハグをしてキスをした。誰かが笑って傍を通り過ぎた。

私は海でホオジロザメを見つけて、連れて帰ってきた。サメは陸に上げると、空気が抜けたみたいにぺしゃんこになった。水を少しかけてやった。サメはいつの間にか布団の上にいた。人が近づくと噛もうとした。小さな桶に入れると、小さなサメになった。サメの大きさも形も見るたび変わるので、目を離した隙に物事が一変してしまうのが夢なんだなと、私は夢の中で思った。


ごはんを食べます