朧(oboro)

著作権フリーの青空怪談「禍話」のリライト等をやらせていただいております。よろしくお願い…

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著作権フリーの青空怪談「禍話」のリライト等をやらせていただいております。よろしくお願いいたします。

最近の記事

【禍話リライト】こっくり譚「恋愛相談」

 こっくりさんにまつわる話を蒐集しているK氏の採話によるもの。  平成の半ばごろの話だそうだ。  体験者が通う学校ではこっくりさんが流行していた。といっても当時は違う名前で呼ばれており、やり方についても古式ゆかしいこっくりさんとは細かな違いがあったようだ。ただ、なんらかのものを呼び出して質問に答えてもらう点は共通していたため、ここではこっくりさんのバリエーションとしてそう呼んでおく。  ある時、友人の女の子がこっくりさんに恋愛相談をしたそうだ。  運命の人とはいつ出会え

    • 【禍話リライト】こっくり譚「こっくりさんマニュアル」

       こっくりさんにまつわる話を蒐集しているK氏の採話によるもの。  高校生の時、体験者――仮にAさんとしよう――は部活の全員で倉庫の片付けをすることになった。  単なる雑用ではなく、きれいに片付けたらその倉庫は部で使ってよいという交換条件があったのでみんな張り切っていた。  倉庫に積み上がっていたのは、当時は何らかの記念として残したのだろうが今となっては不要な物ばかりだった。そもそも経年劣化でボロボロになっているものも多く、Aさんたちはそれらを次々とゴミ袋に詰めていった。

      • 【禍話リライト】開く天袋

        「――天袋が開くんです」  これは、禍話の語り手であるかぁなっき氏の下にDMで舞い込んだ話である。 「いま住んでるマンションの和室に、ふすま3枚分の幅の押し入れがあるんですけど」  そのうち、真ん中の天袋だけがひとりでに開くのだそうだ。  音もなく、気がつくと開いている。閉めても2日以内にはまた開いている。もちろん家族の誰かが開けているわけでもない。 「いつも、15cmくらいかな? それくらい開くと、それ以上は開かなくて」 「ああ、じゃあ、建付けとかじゃないですねぇ

        • 【禍話リライト】霊が窓を叩く

           夏の夜。  Mさんは窓に背を向けてパソコンで作業をしていた。窓を閉めて扇風機だけが回る一人の部屋は静かだ。  コツ、コツコツ。  不意に窓が鳴った。  振り向いたが何も無い。虫でもぶつかったかな、とMさんはパソコンに向き直る。  コツ、コツコツ。  また鳴る。  扇風機の風でカーテンか吊り具が揺れているのだろうか? しばらく見ていたがそういうわけでもなさそうだ。首をひねりながら再び向き直る。  コツ、コツコツ。  コツ、コツコツ。  ――何度か繰り返して気づ

        【禍話リライト】こっくり譚「恋愛相談」

          逆噴射小説大賞セルフ反省会

          逆噴射小説大賞2022、ありがとうございました。 自分が楽しめる文章を書くことを主目的として結果は求めずに参加したものの、レギュレーションのある「賞」に提出するにあたって反省点も多いなと感じましたので一人反省会です。 女王蜂の帰還800字で7人出すのは正気の沙汰では無かった。 その一言に尽きる。 従前から漠然と持っていたアイディアを落とし込んだのだが、登場人物が多いことにより「人物を出す」ことに気を取られいわゆる予告編的なものになってしまった感がある。描写自体は詰め込まれ

          逆噴射小説大賞セルフ反省会

          【禍話リライト】電柱を巡る話三題

          元祖!禍話 第二十三夜(2022年10月8日)より電柱にまつわる3つの話 同じ場所の喫煙者 「ほら、一人暮らししてると、思いつきだけで行動したりしません? 夜中に急にコンビニ行ったりとか」  その日の彼も、あ、コンビニ行こう、くらいの軽さで夜遅くに家を出た。部屋を出て鍵をかけ、外廊下からふと見下ろすと街灯の下に赤い光が見える。なんだ? と思って目をこらすと何のことはない、誰かが電柱の下で煙草を吸っているのだった。知り合いでもなければ別にこちらを見ているでもない。ふぅん、く

          【禍話リライト】電柱を巡る話三題

          神は平等である、○か×か

          「ハロー、神様だよ!」  頭から爪先までどっぷりと返り血を浴びてそいつは言った。 「やあやあみんな元気かな? 元気そうだねぇ!」  言いながら高々とドロップキック。正面にいた黒服が撃沈。着地と同時に右手の大型バールが一閃。斜め前の三下が痙攣。顎下を刺し貫いたバールを捻り抜いた自称神様は真っ赤なシャワーを浴びた。闖入者に驚いた面々が銃に手を伸ばした頃には奴の照準(エイム)は終わっている。1、2、3、4。鮮やかなヘッドショットを4連続で披露してくるりと振り向く。5。延髄にドロッ

          神は平等である、○か×か

          悪夢あるいはトライアンフスラムの崩壊について

           何を巻いたんだったかも忘れた手巻きの煙草に火をつける。ハズレではないが当たりでもなかった。煙を肺に巡らせて見上げる空は舌に広がる味と同じく曖昧に濁って蕩けていた。もっともこれは俺の心情に起因するものではなくこの街から見上げる空は概ねこんな様相だ。いや、今はもう「だった」と過去形にするべきか。空がではない。街が。  視線を下ろせば石混じりの土砂。腰掛けるのはかつて誰かの住処だった瓦礫。目の届く範囲にまともな形を保っている建物はなかったし、まともな命も残ってはいなかった。この

          悪夢あるいはトライアンフスラムの崩壊について

          我ら神々に見初(そ)められ

           発報は旧新宿B-37街区、コンビニエンスストア。正確にはその裏手の物置ということだった。 「桃ちゃん、元気そうで何より」 「スーさんも相変わらずうるわしい御髪(おぐし)で」 「仕事の一部だからね」  本部による完全封鎖が敷かれたB-37街区は嘘のように静まり返り、投光器の明かりだけが眩しかった。 『そちらにある物置が今回のオブジェクトです』  イヤホンから第二十八代目としてスクナビコナに選ばれたミサ嬢の可憐な声が届く。 『事前スキャンの結果からおそらくイワト型ではないと思

          我ら神々に見初(そ)められ

          女王蜂の帰還

          「もう5年も経つんスね」  柔らかいブラウンの髪を掻き上げてイッパクが言った。 「まったく早い、もうイッパク君も就職かな」 「院生です、一応」 「学ぶのはいいことだよ」  俺は賢人ぶった仕草で頷いて炭酸水を飲み、イッパクの見つめる先、この部屋で一番上等な席に置かれた写真立てを見る。  ボブ・カットの黒髪。潤んだ黒目、繊細な睫毛、通った鼻筋、微笑の形のまま無彩色に沈んだ唇。  リボンこそ掛けていないが、遺影であった。 「こうして見ると本当に惜しいことをした」  ブランデーグ

          女王蜂の帰還

          【禍話リライト】ウオノメ

          「何かのイタズラなんじゃないかとは思うんですけど、イタズラにしては手が込みすぎてて――いや、まぁイタズラ、なんでしょうけどね」  ちょうど、ビデオからDVDへの過渡期の頃の話である。  体験者はフリーマーケットでたまたまレアなアニメのビデオを見つけた。普通に探せば1,000円や2,000円の値段は当然に付くだろうビデオが驚いたことにワンコインで売られている。一も二もなく手に取ると店番の人が、それセット販売なんで、ともう一本ビデオを差し出した。アニメのビデオの方はきちんとパ

          【禍話リライト】ウオノメ

          【禍話リライト】赤い扉

           赤い扉があるのだそうだ。  取り立てて特徴もなく、部屋数が多いことくらいしか取り柄のない田舎のラブホテル。今は廃墟となったそのラブホテルにはひとつだけ、赤い扉がある。たとえばVIPルームであるとかそういうわけではなく、ごく普通の扉が並ぶ中に理由もなく赤い扉がひとつだけあるのだ。その中に入るとよくないことが起こり、不幸になる。最悪、死ぬ。  ――彼らが行くことになったのは、つまりそういう噂のある場所だった。  いや、大半のメンツの気持ちの上では、「行かざるを得なくなった

          【禍話リライト】赤い扉