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【禍話リライト】開く天袋

「――天袋が開くんです」

 これは、禍話の語り手であるかぁなっき氏のもとにDMで舞い込んだ話である。

「いま住んでるマンションの和室に、ふすま3枚分の幅の押し入れがあるんですけど」

 そのうち、真ん中の天袋だけがひとりでに開くのだそうだ。

 音もなく、気がつくと開いている。閉めても2日以内にはまた開いている。もちろん家族の誰かが開けているわけでもない。

「いつも、15cmくらいかな? それくらい開くと、それ以上は開かなくて」
「ああ、じゃあ、建付けとかじゃないですねぇ……」

 調べてみたが、事故物件というわけでもない。
 天井裏に怪しげなものが、ということもない。

「ちなみに、天袋には何か入れてるんですか?」
「雛人形を」

 雛人形。

「それじゃん!!」

 ――と、氏が言ったかどうかは定かでないが。

 投稿者さん曰く。

 天袋にはお祖母様の雛人形がしまってある。お祖母様の実家は軍需工場を経営していたとかで経済的にゆとりがあった。そのため、くだんの雛人形も娘たちのために毎年一段ずつ人形師から買い求めて揃えたという段飾りの雛人形で、お内裏様とお雛様に至っては戦前の作だそうだ。

「そういう本格的な雛人形なんで、重さで天袋が歪んで開いちゃうのかな、と思ってたんですけど」
「けど?」
「お内裏様とお雛様を飾ってる間だけ、天袋が開かないんです」

 お内裏様とお雛様。
 戦前の作だというその二体を飾っている間は、他の全てが天袋にしまわれたままでも、天袋は開かないそうだ。

「これって、何か関係があるんですかね」

 いや、関係があるも何も。

「……まあ、ちゃんとした由緒ある人形みたいだし、ずっと出しといてあげてもいいのかな?」

 と、氏は語りを終えた。



本記事は、無料・著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」より、一部を再構成の上で文章化させていただいたものです。
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2022/08/27 禍話六周年!だけど通常運転&Q視聴スペシャル 「開く天袋」(36:21~)


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