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ささやかな生活 2016.

知らない町で、知らない家で、知らないスーパーで買い物をして料理をし、日々を送ってきた。

部屋に一つしかない灯と机の下で、送る場所もない、誰宛でもない、手紙を書き、何冊もの本を読み、誰とも会わず、テレビも見ずに、2年が経った。

季節は移り変わり、冬が終わり、花の美しさを知り、ホタルの光を生まれて見て、雨の音を聴きながらコーヒーを飲み、夜の海辺で月を見たりした。

目に映る綺麗な景色、人の優しさ。やっと見つけた、少しの希望に出会う度に、混乱した。とても、こわかった。自分の人生を取り返す為に、欲しかったものなのに。

穏やかな暮らしはずっと、本物か分からないままで、掴むことも、定まることもできなかった。

時々、突然、息苦しさに襲われては、泣き出したり、衝動的に道路に飛び出しそうになった。

けれど、夕方の空気はあたたかかったし、鳥がしずかに巣へと帰っていく様子が見えた。

夜中の住宅街は、歩いても、歩いても、静かで、星が見えるくらいで、あとは何もなかった。

もう、大丈夫。

大丈夫だから、と、温かい紅茶を飲んで眠った。もうずっと、このまま、目が覚めない方が良いのかもしれないと、思った。

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