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いろ採りの旅

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いろは見るものだけでなくて、感じるものでもあるかもしれない。 彩の字源は、木から果実をとって、綺麗に色を纏っていくさまだという。そしてそれの意味するところは、いろどり、つや、転… もっと読む
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福島県南会津郡 -さみしさの尾瀬

福島県南会津郡 -さみしさの尾瀬

「夏の思い出」の有名な一節、「はるかな尾瀬 遠い空」という言葉は、尾瀬はいつでも明るい桃源郷のとうな場所だと思わせる。だけど、必ずしもいつも晴れているというわけではないよう。曇り空でどんよりと湿気た尾瀬に入り込んだときの違和感は、普段は溌剌としている人が突然表情に陰りを見せた時に感じる小さな衝撃と似ていた。急にその人の人生の異なる側面が見えて、その人を構成するものが立体的に浮かび上がってきてしまっ

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北海道美瑛町  空と丘のあいだ

北海道美瑛町  空と丘のあいだ

一面のソバ畑。
人に見せるために植えられたわけではなくとも精一杯咲く花々の健気さには、花壇の花以上に美しさを感じてしまう。美瑛町は、空と大地のはざまにあった。

まふたつに世界をわけあうそのさまは壮大で、でも、境界線があるはずなのに不思議と調和を生んでいる様子には愛おしさも感じられる。
海ではないけれど、海と空が融けあって愛しあうという、ポールモーリアのLove is blueの日本語歌詞が浮かん

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石川県小松市 日用の苔

石川県小松市 日用の苔

真夏にも関わらずやけにひんやりとした一本の車道を車で走っていると、ふと山際にあらわれる。着くころには、街で身につけたざわめきが身体から抜けている。石川県小松市、日用神社。

そこは辺り一面苔の海。その苔の潤いは、触らずとも肌のうらにまで染み込んでくる。上を見れば背の高い杉。下にも上にもひろがる緑の世界はそこにある時空間を八方から吸い込んで歪めている。

人間がシカ除けや熊除けをならすように、どこか

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いろを採る

いろを採る

目ではたしかに色を見ることができているはずなのに、心の中で遅れて繰り返されていく景色が霞んで、暗い。
もしかしたら、いろは見るものだけでなくて、感じるものでもあるのかも知れない。

脈絡もなく、自分の名前に「彩」という文字が入っていることが頭に浮かんだ。
そういえばどんな意味なんだろう。名前と自分が一体化していたが故に、深く考えたこともなかった。ただなんとなく、色そのものを指すわけではないんだろう

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