石川県小松市 日用の苔
真夏にも関わらずやけにひんやりとした一本の車道を車で走っていると、ふと山際にあらわれる。着くころには、街で身につけたざわめきが身体から抜けている。石川県小松市、日用神社。
そこは辺り一面苔の海。その苔の潤いは、触らずとも肌のうらにまで染み込んでくる。上を見れば背の高い杉。下にも上にもひろがる緑の世界はそこにある時空間を八方から吸い込んで歪めている。
人間がシカ除けや熊除けをならすように、どこからともなく鳴き続ける何千匹ものセミの美しくも不気味な声は、緑の世界から人除ける音なのかもしれない。
苔が育つ条件を教えていただいた。
その1つには、落ち葉が落ちていないことがあるという。そのため常に庭を手入れしている神社には苔が育ちやすいのだそう。
自然の極地のような苔が、人為に支えられて美しく生い茂るのは捉えどころのない違和感をつきつけてくる。
さて、苔を見ていると、自分の視点の狭さに気づく。
苔とそれが生きる環境は見えないほど小さいけれど、確実にそこには深淵で広大な世界が広がっている。
だけどそれは、自ら寄ってみないとわからない。
同じように、どこにでも必ず縦に拡がる世界がある。それを見落として次から次へと横に探し求めてしまうこともあるけれど、縦の世界の存在に気がつき、愛せるようになりたい。
日用神社(石川県小松市)
https://www.ishikawa-jinjacho.or.jp/shrine/j0511/
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