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自然相手にはしゃぐ

とある山中の石碑の前で、そこに書かれた文字を写生して読解していた時の話し。
その日は日差しが眩しくて、ハイマツとダケカンバの影に腰を下ろし、文字を目で追っていた。

なにぶん山の中なので静かだ。人もいない。といっても、全く音がない訳ではなく、ザァーっと吹く風、ガサガサと動く小鳥、カサカサと歩く虫、そんな音は聞こえてくる。
その中で、ショリショリショリ・・・という何か得体の知れない音がかすかにしてきた。
写生した用紙から目を離し、音の方へ顔を向ける。
一匹のアキアカネがいた。
でも、アキアカネはトンボだ。いわゆる鳴く虫ではない。

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疑問を抱えたまま目を文字に戻す。
すると再び「ショリショリショリ・・・・」

ううううん!?

振り返る。
アキアカネ以外何もいない。
まじまじとアキアカネを見ると、わずかに音を立てながら口が動いていた。
「え?あ、お前なのか!!」
思わず声に出していた。
写生した用紙を放り出し、今度はそのアキアカネに向き合う。
大きな複眼が付いた頭部がキョロキョロ動いた。

次の瞬間、目の前を通過する小さな昆虫めがけて飛びたち、弧を描いて戻ってきた。口を見ると「ショリショリ・・・」と動いていた。
「そっかー。音の出どころはわかったけど、今それ食べてるの?動き早すぎてよく分かんないし。」
ひとりごとなのか、トンボに話しかけてるのか、私にも分からない。

私はいっけんするとマジメな普通の人だけど、自然相手になるとこうなる。
都会の公園でもそうだ。そうして楽しんでいる内に、気付きがあったり、疑問が湧いたりする。実生活において必須の能力じゃないけど、そうしたくなるのなら、素直にその感覚に従った方が楽しい思う。
こんな道端の花を見るなんて変な人に思われちゃう、虫なんか見て、なんて気にしない。
別に変な人でもいいじゃないか。

こどものように、知らないことを知った!見つけた!と楽しむ心がある人は、思うまま感じるままに楽しんでみて。
頭で考えるのは、それからだ。

後日、トンボの咀嚼音について調べてみたけど、明確な答えにはたどり着けなかった。
これで未解決の扉がまた一つ。

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