中高ドイツ語を独学するための入門書類

 中高ドイツ語(Mittelhochdeutsch, Middle high german, 以下Mhd.)をご存知でしょうか。 およそ1050年-1350年頃に用いられていた高地ドイツ語です。この時代には豊富な文学作品が生み出されており、例えば「ニーベルンゲンの歌」など日本において邦訳され出版されてる作品もあります。そのため、(ドイツ)中世文学が好きな方の中には原文で読んでみたい!と思う物好きな方もきっといらっしゃることでしょう。しかし現代ドイツ語とは異なり、日本語でどのように、そして何を揃えれば独学ができるのか紹介しているような記事などはあまり見当たりません。(一番いいのは大学もしくは大学院に行って教えてもらう事ですが...。)
 そこで今回はMhd.を独学できるような入門書類を簡単に挙げてみようと思います。私が学部時代に(多分)専門家である先生から紹介されたラインナップですの一部です。初学者向けですので、PaulのMittelhochdeutsche Grammatik等は紹介しておりません。もちろん現代ドイツ語がある程度読める前提ではあります。

書籍

1. 「中高ドイツ語」古賀允洋 著. 大学書林.

 Mhd.の基本的な文法とそれに準ずる練習問題がついている入門書です。適宜Lexerの辞書を使うことを必要としていますが、一応は辞書を持っていなくても学習を進められるように配慮がなされています。 古い版を中古で買うと問題の解答がついていないので注意してください。 (定価: ¥4,500+税)  

2. 「中高ドイツ語小文法」 フーゴー・モーザー著, 井出万秀 訳. 郁文堂.

 コンパクトに纏まった文法書です。薄いながらも意外と麻姑掻痒で、初学者には十分すぎる内容かと思います。中高ドイツ語のみならず折に触れてゲルマン語・ゴート語・古高ドイツ語等に関しても(起源的な内容で)触れられており、通時的に広い視野で中高ドイツ語を理解するが可能となっています。 1.の書籍と併せ必須の1冊ではないでしょうか。(定価: ¥2,200+税)

3. 「Einführung in das Mittelhochdeutsche」 Thordis Hennings著. De Gruyter.

 1. 2.と比べてSyntaxは充実していませんが、音、形態に関しては簡潔かつ割と充実した内容となっており、ドイツのギムナジウムや大学で教科書として採用されている読みやすい本となっています。ドイツ語で書かれていますが、平易であると思います。

 上記リストの入門書が終われば、なんとか作品を読む下地はできるのかなといった感じです。今後、何か作品を読む際には、その作品の対訳本や注釈本、辞書等を参照しながら読み進めていく事となります。

辞書

1. 「Mittelhochdeutsches Taschenwörterbuch」 Matthias Lexer著.  S. Hirzel Verlag.

 いわゆる小Lexerと呼ばれる、定番のMhd.-Nhd.辞書です。これがなくしては始まりません。

2. 「Kleines Mittelhochdeutsches Woerterbuch」 Beate Hennig著. De Gruyter.

 辞書の雰囲気や情報量は、上の小Lexerとあまり変わりませんが、個人的にはこちらの方が見やすく、好んで使っています。

 小LexerもHennigもあまり変わらないと書きましたが、やはり片方には載っててもう片方には載ってない、語訳がピンとこない等はありますので欲を言えば2冊揃えてしまうのが当然ですがベストではあります。

 ちなみに紙に拘らないのであれば、研究者の定番であろうLexerのMittelhochdeutsches Handwörterbuch (いわゆる大Lexer)やBenecke, Zarncke, MüllerのMittelhochdeutsches Wörterbuch等の辞書が  Wörterbuchnetz: https://woerterbuchnetz.de/  で無料で使用できます。

 他にInternet Archiveにて著作権切れの辞書のPDFファイルが色々とダウンロードが可能です。

 さて、今回上記のリストに載せていませんが、日本語の中高ドイツ語辞書が「中高ドイツ語辞典」「中高ドイツ語小辞典」の2冊が出版されています。しかし両方とも現在は絶版となっており値段が高く入手困難な状況です。(これを書いている時点では、前者は3万円、小辞典の方は8000円程度。)

対訳 (中高ドイツ語 : 日本語) / 注釈本

 大学書林より、数冊ですが特定の作品(の一部)の対訳/注釈本が出版されています。現在では絶版となっていますので入手に難があるかもしれません。参考までに書き記しておきます。

1. ニーベルンゲンの歌

ドイツ中世文化の代表的作品である叙事詩「ニーベルンゲンの歌」写本39歌章2379節のうち12歌章298節を選び注釈をつけた。収録以外の歌章の梗概、解題文献表、文法、語彙索引1100付き。

ニーベルンゲンの歌 - 大学書林


2. リヴァリーンとブランシェフルール

中世ドイツ文学を代表する作品のひとつゴットフリート・フォン・シュトラースブルクの叙事詩トリスタンの中よりトリスタンの両親リヴァリーンとブランシェフルールをめぐる物語を選び詳細な脚注、巻末訳にて収めた。語彙索引つき。

リヴァリーンとブランシェフルール - 大学書林


3. ワルトブルクの歌合戦

詩人たちの最大の賞賛に値する最良の君主は、なぞなぞの形でキリスト教の教義を説き明かす、「ワルトブルクの歌合戦」中高ドイツ語脚注対訳形式でテキスト4編、伝説の記録3編を収めた。

ワルトブルクの歌合戦 - 大学書林


4. ミンネザング

ヨーロッパの騎士文学に関心を持つ日本の研究者に中高ドイツ語のミンネザングを紹介するための入門書。ミンネザングの活躍した1150年~1300年にわたる主要な詩人26人より60篇を採用した。年代順に配列。解説付き。

ミンネザング - 大学書林


5. 愛の歌

中世ドイツの抒情・箴言詩作家の著名なミンネザングより35歌選び初・後期の歌、遍歴時代、乙女の歌、ライヒなど8区分に分け収め、解説・詳注を付けた。

愛の歌 - 大学書林


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