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「派遣さん」は仲間ですか?

「派遣さんって呼ぶな!私の名前は××だー!!」
というのはドラマなどで聞いたことのある科白ですが、
実際にはまだ「派遣さん」は時々耳にする呼称です。
でも、正社員が「社員さん」と呼ばれる気持ち悪さを思えば
少なくとも、個人を指すときに使うべきでないことは
間違いないでしょう。
(以下、集合名詞としての「派遣社員」という言葉は
使わざるを得ないのですが、ご容赦ください…)

では名前で呼べばそれでいいのか?というと
そういうことでもなさそうです。

手前味噌ですが、数年前に部署を異動した際に
同じ部にいた派遣社員の方々が
次々にやってきて、別れを惜しんでくれました。
(特にそういう文化があるわけではありません)
でも実は、以前の私は
毎月のように派遣社員に辞められてしまうダメ社員でした。
その反省や、人からもらったヒントを糧にした結果
いい関係性が築けるようになっていたのかな、と思い
涙が出るほどうれしかったです。

その時に何を考え、何をしたのか、について書いてみます。
もし、派遣さんとの関係づくりを考えている方にとって
いくばくかでもヒントになれば幸いです。

その人のトピックについて話を振る。

場合によっては「その服似合うね」がハラスメントになる昨今、
業務以外のコミュニケーションは気を遣うものですが
まずは雑談をもちかけ、相手が話したいトピックを探し出して
それについて、事あるごとに話を振ります。
普通じゃん、と思いますよね。
正社員同士なら、普通です。
でも、派遣社員に対しては、していない人もいるかもしれません。
忙しすぎて、コミュニケーションは後輩や部下で手一杯
ということもあるでしょう。
でも、逆に言えば、後輩や部下と同じくらい大事な人材だと
示す機会にもなります。
目的はそこにあります。
相手が話したいトピックを振り続ける、のはそのためです。
相手の話を覚えている、というのは
あなたに興味があります、あなたが大切です、という表明です。
恋愛のテクニックでもあるくらいですから、効果ありそうです。

もっとも、
仕事中は無駄話しません!時給に入ってるんだから!
というプロ意識の高い方もいますから、
どの程度のお喋りなら相手の許容範囲なのかも探りつつです。
もし断られたり嫌がられたりしても、
コミュニケーションの難度が上がり、機会が減っている中で
「この人は、自分の話を覚えていて聞こうとしてくれる」
と感じてもらえれば、意味はある気がします。

話を重ねていくと、ふとした時に
その人の仕事観や働き方に関わる状況が垣間見えたりします。
すると、場合によっては
業務上のかかわり方を変えられる可能性が出てきます。

頼りにする。

単なる作業者としてではなく、まとまった仕事を一任する相手、
時には相談相手になってもらう。
専門職の話ではありません。一般事務の派遣さんです。
それは相手にとって負担では?と思うでしょうか。
もちろん、人によって事情や感じ方も違いますし、
契約外の業務を強いることは論外です。
ただ、「派遣社員には指示やマニュアル以外の動きは
一切させてはいけない」というのも
ちょっと硬直的な考え方かもしれないと思うのです。
管理者が把握できる範囲内なら、そして相手もそれを望めば
少しはみ出してもいいのではないか。
部下や後輩の育成と同じです。
もちろん、派遣社員の場合は、育成ではありません。
むしろ、相手はプロです。
だから、それをリスペクトして、指示を加減してもいい。
「すべての手順を指示してほしい」
という人には、詳細な指示が必要ですが
「ゴールが判ればやります」
という人には、細かいことは言わず、ルールを示してお任せする。
さらに、事柄によっては、意見や提案を求め、相談もしてみる。
自分の経験上は、たいていの人が前向きに応えてくれます。
そういう時、やりがいも感じてくれるのではないかと思います。

スキルや人となりに応じた指示や依頼のしかたが
業務の円滑化や効率化に作用することは
正社員も派遣社員も同じです。
でも、正社員はともかく、同じ派遣社員の中で
人によって扱いを変えるべきではない、変えられない
という考え方も状況もありうるでしょう。
だから、もし状況が許せば、という条件付きですが
やる気のある派遣社員がいるなら、頼らないのは
二重の意味でもったいないと思います。

メンバーの一員として参加してもらう。

言葉で書くと陳腐ですが、これを行動で伝えるのは
結構難しいのではないかと思います。
立場によっても、できることが違うでしょう。
自分が個人的に気に入っていたのは
チームミーティングに参加してもらうことでした。

私が新人だった頃は、社員に一般職と総合職の区分があって
一般職は、書類作成や伝票作成など作業的な業務を担い
会議や打ち合わせに参加することは、ほぼありませんでした。
一般職だった私には、だから
自分の部署の動きの全体像は見えませんでした。
私は意識低い系だったので、そんなもんかという程度でしたが
向上心のある人たちの中には不満を持つ人もいました。
その後、一般職は廃止され、派遣社員がたくさん来てくれました。
何人もの派遣社員と一緒に仕事をする中で
1か月で辞める人が続出する、情けない時期もありました。
自分が管理職になった時、同じ部、同じ職位で
別の会社から来た人と一緒になりました。
その人は、話すことやシェアすることが大好きで
さっそく部の定例会議を提案して開催しはじめました。
その時に、当然のように派遣社員にも参加してもらったのが
私の目から鱗を落としました。

その後、部の会議とは別に、自分の課だけの
定例ミーティングもすることにしました。
そこでは、各メンバーが業務の進捗報告をするのですが
派遣社員にも、毎回、一人ずつ報告してもらいました。
部の会議では、時間の都合で
発言するのはチームごとの代表、正社員だけです。
課の会議は、必ず全員が発言する場にしました。
派遣社員は報告することがない、なんてことはありません。
たとえマニュアルどおり仕事しか依頼していなくても
話してもらえば、何かしらの情報は出てくるものです。
それは最前線の具体的な情報ですから
思わぬ気づきを生むこともありますし、
問題の早期発見につながることもあります。
なにより、この場の目的は情報共有だけではないのです。
派遣社員の一人ひとりが自信を持って報告してくれるのは
聞く方もうれしかったですし、本人たちも誇らしげなように
私には見えました。

これは一例ですが、
「正社員と派遣社員がまったく同じように参加する」
機会や仕組みがあるといいのではないかと思います。

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同じ会社で働く仲間だから。
というのは、これもドラマみたいな赤面ものの言葉ですが
それが単なるお題目でなく、感覚として腹落ちすれば
結局、それに尽きるのかもしれません。
行動が意識を変えることはよくあります。
そして、長い時間一緒にいれば
考えていることはだいたい通じます。
件の派遣社員のみんなも、私を仲間だと思ってくれていたのなら
とてもうれしいなと思います。