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pray human/崔実

「声を上げられなくても自分を責めないで。守りに入ることは決して悪くないし、誰もが大声で叫ぶ必要はない」という著者の言葉に勇気をもらう人は多いのではないかと思う🕯
以前、メアリー・ビアード著「舌を抜かれた女たち」の読後記録で私は、世界的な#Me Tooの動きから外れている人たちをおもってしまうと書いた💠
「pray human」の著者である崔実は、Me Tooの動きに勇気をもらう一方で、過去の体験を振り返り、まだ何も話せていない自分を「なんて弱い人間なんだ」と感じたという。
そして、これを乗り越えないと仕上がらないと感じたともいう彼女の作品は、沈黙をめぐる痛みを超えた場所で、リアルも心象風景も融合した全てを見せてくれる💠

言葉にすることはあまりにも痛みを伴うから、人は大切なことや真実にはつい口を噤んでしまう。震えるような恐ろしい経験をしても、何もなかったかのように沈黙してしまう。
言葉に発することよりも、痛くないように見える方を選ぶ。

過去に性的虐待を受けた主人公は家族にも親友にもそのことを言えず、ひたすら沈黙していた。17歳の時に精神病棟に入院していた彼女は、10年の月日が経った現在、当時出会った患者仲間の力を借りてようやくその沈黙を解き、同じく患者仲間であり心の繋がりを感じていた「君」に向けての思いを語る💠

過去と現在が複雑に入り混じり、中盤まで曖昧にしか存在しない「君」に向けての語りがベースとなる本書の文体が持つ独自な浮遊感は、読者がどこにいればいいのかわからなくなってくるような不安さすら伴うが故に、敬遠されてしまいそうだ。
それでもシーツを摘んで引っ張れば皺が寄って山ができるように、物語の中心をつまみ上げて周りをぐんぐん均一に引き寄せていく構成はまるで映画を観せられているようで感嘆する。。
不意に著者の子供のように素直すぎる感性が断片となって現れてくるのにとても胸を突かれた💠
著者のデビュー作で私も大好きだった「ジニのパズル」を読んだ時も同様のことを感じたことを思い出す📖

時に、沈黙することは側から見たらずるくて楽なように見えることがある。
でも自分の中に痛みを抱えたまま、ただただ時間が過ぎるのを待つのは地獄だ。
人の沈黙には1番耳を傾けなきゃいけないし、同時に、沈黙することは何も生まないよ、と
この物語は言っているようだった💠

間違いなく、読むタイミングや人を選ぶ物語ではあるものの、中盤以降から主人公の過去や、曖昧な「君」が見えてくると、もう物語に寄り添わないわけにはいかなかった💠

本が見せてくれる景色は本当に広い🕯
自分の想像も及ばない場所や方法で必死に命を燃やす人がいるから、どんな小さなことにも敏感でありたいし、目を背けたくないなと思う🕯
例えば「女性はいつだって連帯できる」と理解しているつもりでも
実際に手を取り合って相手の声を聞いて温度を確かめることは実は本当に難しいと思うから
だからいつでも自分の心にしっかり、少しばかりの勇気と想像力を貯めておきたい。

たまたま、メアリー・ビアード著「舌を抜かれた女たち」を読んだ後で、声を上げないことについて考えていたこともあって、幸運なタイミングで出会えた一冊です💠
崔実のこれからの作品も本当に楽しみでずっと追いかけたい📖

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