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【オトナの歌謡ノベルズ】#あほあほ祭り奉納編




こちらは、『あほあほ祭り in 2021 梅雨』参加作品です。



 🥂  🥂  🥂


『ユー・キャン・リーヴ・ユア・ハット・オン / ジョー・コッカー』





「久しぶりだね」
「うふん、逢いたかった。ねぇ貴方は?」
「もちろん逢いたかったよ。この君の香りと一緒に。」
長い髪を少し持ち上げ、白い首筋を眺める。思わず、吸血鬼のようにそこへ吸いつく。
大きなフランス窓から差し込む古いガス灯の柔らかな灯りが、艶かしく彼女を浮き上がらせる。
眼下には黒くしっとりと濡れた石畳のコンコルド広場。さっき走らせて来たルノーのフロリダが脇に停めてあるのが横目に見える。中央にすっくとそびえるオベリスク。思わずゴクリと呑み込む生唾。

「好きな映画があるんだ。恋人たちが夜中に冷蔵庫の前で中にある物を次々に口へ運ぶ。果物とか、ミルクとか、はちみつとか。」
「夜中にそんなに食べたら、ボディラインが崩れちゃう。」
「心配しなくていい。振りだけだから。」
「あら、フェイクは私の流儀に反する。」
「知ってるさ。そういう"プレイ"なんだよ。」
しゃぶりつきたくなるような口元が、全てを理解してくれたようだ。頭の回転の早い女は手離し難い。

手始めにシャンパンボトルを冷やしておいたクーラーから荒々しく氷を鷲掴みにし、口へほうばる。ガリガリと噛み砕きながら、喉元に流れる大きな水滴。女の視線が釘付けになり舌なめずりを我慢できないらしい。
準備はできてる。
「ねぇ、喉がカラカラ。」
同じ様に鷲掴みにした氷を、今度は少し手で温めてから、白い首筋に水滴が垂れるよう落とす。
ややはっ、として唇を開いたところへ上の方からポタポタと滴らす。
「もっと。」
自然と乞うように口を大きく開け、瞼を閉じる。
腰に巻いていたシルクのエルメスをそっと目元に巻きつける。
上手くいった。全く怖がらない。
それどころか真っ白な前歯で紅く塗った下唇の端の方だけを噛んでいる。この噛み方に弱い。

チェリートマトを口先につけると強く押し付けてくるのでそのまま中へ押し込む。舌の上で面白そうに転がして、先に乗せて上下に動かす。こっちもその動きと同じように舌をくっつけると、くすぐったがってそのまま大きな口へ滑り込ませる。
真っ赤に熟した苺をつまみ、先の方で唇をなぞってやる。口の中に放り込んで欲しそうに追いかけてくるのでいたずらっぽく焦らしてやる。金魚のように口をパクパクさせるのが見たいからだ。これをやられるとこっちの神経が一気に緩む。欲望が増す。無理矢理口に押し込むと口の脇から果汁がためらいがちにたっぷりと溢れてくる。
しかし何だって赤って色は欲情を掻き立てるのか。透き通るゼラチン質のぷるぷると揺れる真っ赤なジェリー。それの前でさっきの果汁を鬱陶しそうに手で拭う彼女。口の周りはいつにも増してベタベタとして大きな舌でベロベロとなぶりたくなる。緩めのジェリーにずっぽりと指を突っ込んですくい上げながら口へ運んでやると、もう口に入っても入らなくてもいいといった感じに頭を左右に揺らす。そこへ思いっ切り瓶ごと振ったスパークリングウォーターを見境なく引っ掛けてやる。キャーキャー言いながら、
「こんなの着てられない。」
と肌にぴったりくっついた薄手のブラウスを剥ぎ取り、つるっとした生地のタイトなスカートもついでに脱ぎ捨てる。現れた黒い大柄総レースのボディースーツが白い肌をやけにむっちりと際立たせる。こんなのは反則技だろ。そろそろ我慢も限界だ。

「とっておき、出そうか。」
「ちゃんと辛口なんでしょうね?」
「ご注文通り。」
目隠しをしたまま、満足気に床に四つん這いになる。さすがに慣れてる。その四つん這いの前へ仁王立ちになって上から眺める。つるつるした膝を惜しげもなく床へつき、形良くまとまったふくらはぎは絶妙なカーブを描く。本来隠さなければならない部分が丸出しになったボディースーツは、顔の筋肉が全く緩んで気をつけていないと口から何かが垂れてくる危険がある。
口の狭く細長いグラスにきんと冷えた黄金の液体を注ぐ。瞬時に泡が浮き立って、こっちの期待もかなり浮き立つ。
「ん〜、イケる。」
「ルノー飛ばしてシャンパーニュ行ってカーヴで買って来た」
「それじゃあ、ご褒美あげないとねぇ。」
軽く口に含んでじっくり味わう。
待ってました、とばかりに大きな舌を下から上へと受け止める。泡が消えてく感じがぶるぶるくる。
これをやってもらいたくて、極上の一本も手に入れて来た。どうせなら、これも滴らせてみたい。
今度はやや多めに口に含ませる。
頼む、一気に昇天だ。

....! ! ! !

ギャーーーー!!

シ・ビ・レ・ルーー...
あっ・ほっ・あっ・ほっ...

ダメだ! コリャ、ビリッビリだぜっ!
三年寝かせた発泡酒ってのはこんなにも刺激が強いのかっ!
やめろっ! 使いモノにならなくなる!
あっ・ほっ・あっ・ほっ! 助けてくれーー...

バスルーム、バスルーム。
さっきから一回戦が終わったら楽しもうと用意しておいたジャグジーのバブルバスへ飛び込んでやれっ!いい具合で泡立ってやがる。

ツルッ! くそっ、ボキッ!
いってぇ〜〜...床にもバブルがこぼれてやがる!
バスタブの縁に肋骨叩きつけられたー!
折れただろっ、これは。
どーすんだよ。明日はオランダのアホイで、仕事だぜ。『サヴォイでストンプ』演るはずが『アホイでスランプ』じゃねーか。
アホイに妙な胸騒ぎがしてたのは、こんな災難の前兆か!!
アホイでアホ医にかかんなくちゃならんのか!?


アホイのあほあほ祭りがー!!






...パリからは、以上ですっ!







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