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朝まだき、春の月


空が遠い。


彼にすきだと伝える余裕も前よりぐんと減ってしまったくらい、社会人になって毎日が慌ただしい。こっぴどく疲弊した身体が人との繋がりをより一層希薄にする。合う、合わないが、曖昧ではあるがどことなくはっきり、それも早い段階でわかってしまう私は一度合わないと思ってしまえば途端に目を合わせて話すことができなくなってしまう。自分の苦手だという感情が露呈するのではないか、と恐れている。それが結局、嫌われることを恐れているのか、傷つけてしまうことを恐れているのかはわからない。
新しい人生は始まった当初から荒波だけれど、今はなんとか溺れないでいられている。犬のことを思い出して少しだけ寂しくなる。元気かな、元気じゃなきゃ、許さないからね。前も言ったけれど、私のこと、寂しくなるくらいなら忘れてほしい。
けれど、今はやっぱり、忘れてほしくないなあ。

初めての週末はお花見に行ったり知人のイベントで歌のステージに出演させてもらったりして、また少しずつ新しい扉を開く日々。新しい人との交流、出逢い、出逢う。出逢うことってこんなに明るく軽やかなものなんだ、と思った。二十二になってようやくそう思えた。

研修期間中、二日間だけ配属先実習に出向いたけれど、想像しているよりもずっと素敵な職場で。なんだか、びっくりした。すぐに大好きになってしまえるような人柄の人達ばかりだったことが、私にとって救いだし、少しだけ怖いなとも思う。私の頭には常に「許してもらえるのだろうか」という問いがある。着任は十月とまだ先だから、もっともっと、私は私を許してあげないと。着任、楽しみだな。

どれだけ背の高いオフィスビルに阻まれ空が遠くとも、電車に入り込む朝の光は綺麗だった。車内や線路沿いにある商業ポスターが邪魔をする、それでも友人の艶やかな髪の毛が朝の光に照らされきらきらと煌めくのはずっと見ていられるような気がした。東京の通勤電車はいつも遅延している、それさえもいつか愛おしく思える日が来るんだろうか。


仲良くなれないかもなと思っていた人も今は毎日話をするくらい仲良くなれたし、恋しく寂しくなることもあるけれど、世界で一番大好きな彼も東京にいるんだと思うだけで夢のように嬉しい。彼が雨だねって、低気圧しんどいねって言うとき、それをわかるようになったことが嬉しい。

今月土日はとにかく内見やら引っ越し準備やらで忙しくて彼どころか誰にも会えそうにないけれど、来月は彼に会える予定ができて。せっかく東京に出てきたんだし髪染め直そうかなあとか、いっそのこと短く切っちゃうのもありかな?とか。悩んじゃうなあ。可愛い姿で会いたい、可愛いなって思ってもらいたい、大好きだなって思いたい。少しずつ少しずつ、希望を得て、経て。



まだ死ねないな、で良いんだよ。早く会いたいや。



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