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【書籍】時間とはなんだろう

時間とはなにであるか、という問いに物理学的視点から読み解こうとする本書。

時間とは、物体の運動を理解するために導入された「仮説」である。

1秒という概念は、かつては地球の自転や公転から太陽の位置をもとに、1日を定めそこから時分秒を定めていた。しかし現代ではより正確に「133Cs(セシウム)の基底状態のふたつの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の9,192,631,170倍」というように、自然界の周期運動を用いて定義されている。うーん、わかりにくい。。つまりT=1/Hzより、特定の周波数= 9,192,631,170Hzのマイクロ波を9,192,631,170回照射した時間=1秒、ということになる。

そもそも時間は「時間が流れているからものが動く」と捉えられがちではあるが、自然の順序は逆であり、「ものが動いているから時間を認識できる」と捉えるべきである。

時間は同じ時を刻んでいるのであろうか。時間、とりわけ速度とは何かを明確化するために、古典力学(ガリレオやニュートン)を引き合いに出し、力、質量、加速度から時間における位置エネルギーへと展開される。ただし、このときの時間は「全ての物体に共通の時間を用いて良い」という暗黙の了解がある。この性質の時間は「絶対時間」と呼ばれており、「連続した3次元空間の中に、連続した共通の時間が脈々と流れている」という宇宙の姿が仮説であるにも関わらず、ニュートンの運動法則から裏打ちされたことで、いつしか仮説であることすら忘れ、「真実」として人々の世界観に浸透していったのだ。

時間は逆行できない。時間は非可逆的で常に一方向へと動いている、と経験的に思い込んでいる。だが、ニュートンの運動法則や、相対性理論、量子力学などは「時間の逆行を禁止していない」、つまり時間パラメータtを「-t」に置き換える=時間を逆行させたとしても法則(方程式)は成立する。

この問題に対し、「初期値鋭敏性」、すなわち初期パラメータがわずかに変わるだけで結果(=運動の様子)が大きく変わる、カオス理論から解決へのアプローチを試みている。

運動法則自体は決定論的であっても、多数の物体が複雑に絡み合うと、物体の集まりがカオス的な性質を持ち、実際に起こる現象は疑似的にランダムで予測不可能になってしまう

このことから、時間は逆行できない=我々がいつも見ている「時間の方向」は「エントロピー(=ばらつき度合い)が増える方向」であるため、反転できない時間とは多数の物体が複雑に絡み合い、可能性が多い方向へ一方向に進んでいくプロセスである、と紐解いた。

加えて、かの有名なアインシュタインの特殊相対性理論を持ち出し、時間の遅れについて触れている。ここから、時間の遅れを感覚的に理解できないのは、我々の日常の時間感覚が「絶対時間」にとらわれているためであり、「全ての人に同じ時間が流れる」という認識こそが「思い込み」であるとした。

さらに、「時間方向」という視点からみると、時間と空間とは同じ「方向」であると捉えることができる。空間が動いていなくとも=静止、時間を方向の一種とみなすと静止状態は「時間方向だけに動いている状態」であるともいえる。光速度不変の原理(特殊相対性理論)から、1秒という時間は30万kmという距離にみなすことができる(誰から見ても同じである、という前提のもとで)ため、象徴的な表現を用いれば時間は光速で進む、といえるとした。

ちなみに宇宙での距離は1光年、という単位で用いられ、これは光が1年で進む距離を意味する。このことからも、時間と空間の「方向」は同列に扱ってよいといえるであろう。

ここから4次元(時間+空間)を考えてみる。4次元の位置は「時刻」と「場所」を合わせた概念である。4次元空間の距離を測定する際には、「ミンコフスキー距離」を用いて計算し、この距離を導入した4次元空間を「ミンコフスキー時空」と呼ばれている。

また、時間を加えた4次元時空(時間+空間)では、静止していたとしても時間方向に動いている(光速度不変の原理)ため、物体の速さとは止まっていても動いていても光速である。このことから、「空間方向の移動は時間経過と同じ意味を持つ」といえるのだ。

特殊相対性理論から一般相対性理論へ、さらに素粒子物理学を導入することにより、時空をさらに拡張させ、

私達が暮らしている時空は、時間と空間の4次元に広がる空っぽの器などではなく、その一点一点にたくさんの内部構造(内部空間)である量子場を備え、素粒子はその振動です。物質や力(もちろん私たち自身も)、時空そのものが持つ構造の発現なのです!

時間とはなんだろう?この本のタイトルでもあるこの問いは、量子重力理論をもとに、「宇宙とはなんだろう」と同じ問いであるとし、2017年当時の宇宙物理学の最先端である「ひも理論」、とりわけ超ひも理論へ、さらには行列理論によって、近い将来に宇宙を解明できるような理論が確立される、かもしれない。

このことから、時間は、空間・物質・力を含む巨大な構造の一部である、と結論付けられている。

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大学生の時の専攻は自然科学(地学)であった。が、専攻よりも物理学の講義の方が好きだった。古典力学、電磁気学、光学、一般・特殊相対性理論、量子力学。素粒子物理学はさわり程度ではあったが、20年ほど昔の復習、といった感じで私にとっては親しみやすい内容であった。

そのため、哲学的な時間の捉え方よりよりも、物理学的視点からみた時間の方が理解はしやすく、物理学の目指すべきところでもある「宇宙を解き明かす」ためのキーワードとして、「時間」が空間・物質・力に密接に関わっているものである、というアプローチの方が、時間と空間(絵画の平面性)を展開させやすそうであると感じた。

あとがきで、著者の専攻でもある素粒子物理学は「統一」の歴史であり、とあるのが妙にしっくりときた。なにかを解き明かす(物理学の場合であれば、宇宙であるように)ためには、さまざまな視点や方法、アプローチなどを総動員しなければ太刀打ちできない。

人間が導入した時間によって、我々は無意識のうちに刷り込まれた時間軸上を歩かされている。しかし自然の摂理からすると逆であり、動いているからこそ時間を感じることができるのだ。動いている=生きていることによって時間を認識できるのだとすれば、動いている期間が人生であり、その間生きていることを認識できるのだ。1秒という概念(思い込み)は誰しもが共通に認識してはいるが、時間(人生)の長さは人それぞれである。時間経過は一定であると思い込んでいたとしても、累積時間は決して一定ではない。

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