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【書籍】生態学的視覚論


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アフォーダンス(affordance)

我々が物事(環境、配置、色彩、動作等)を如何に見るかについて、タイトルにもあるように生態学的視覚論によるアプローチに沿って書かれたものである。冒頭より本書を読み進めるうえで基本となる「環境」や「物質・媒質・面・配置・持続」といった各項目について詳細に述べているが、今回は写真・映像の分野にも関連する用語である「アフォーダンス」を中心として筆を進めていく。

環境のアフォーダンスとは、環境が動物に提供するもの、良いものであれ悪いものであれ、用意したり備えたりするものである。

自然が提供するもの、またこれらの可能性ないしは機会のすべてにおいて、不変的なものの用語としてアフォードする(afford;与える、供給するなどの意)という動詞をもとに、著者であるJ.J.ギブソン氏が既存の用語では表現しえないアプローチで、環境と動物の両者に言い表す造語として、「アフォーダンス(affordance)」と名付けた。

先ず、アフォーダンスを読み解くうえで、環境という言葉が重要となる。本書では環境を以下のように定義してる。

環境とは、知覚し、行動する生活体、すなわち動物の周囲の世界を示している。植物も生活体だが、感覚器官や筋組織をもたないため、植物の環境は知覚や行動の研究とは無関係である。

つまり、ここで言う「環境」とは、我々が普段耳にする機会の多い自然「環境」の意味ではなく、動物(=人間)を取り巻く「環境」であることに留意したい。

例えば、物理学的特性から面をみるとき、面は平面といったように特定の名詞そのものを指すのに対し、動物からみたとき、動物の重さに耐えうることのできる硬質な面は動物を支えることをアフォードするものであり、我々はその面を地面や床と呼ぶ。やや難解ではあるが、この環境と動物との相互作用性に気付くことができれば、ステレオタイプな物事の見方ではない新たな視点に出会えることになる。

ここから、動物だけではなく、媒質・物質・面・配置・対象・他者・場所・行動へとアフォーダンス理論が拡張していく。そしてこれらはプラスな側面とマイナスな側面を持ち合わせており、有益や有害、安全や危険といったように、観察者との関係性において決まる対象の特性である。例えば、ナイフは切ることをアフォードする(=Aがナイフを使用する)し、切られることをアフォードする(=ナイフがAを切りつける)といったように。そしてまた、アフォーダンスは物質的世界と精神的世界における価値に関する理論には含まれず、環境がただひとつ存在するのみだと。

また、著者はアフォーダンスの概念として、「ある対象のアフォーダンスは、観察者の要求が変化しても変化しない」としている。なぞかけのような一文であったが、私なりに例えを交えて解釈をしてみた。

ある対象を「ポスト」、観察者を「私」とする。ポストは手紙が投函されることをアフォードする。私はポストに対して手紙を入れてほしい、またときにはポストには何も投函されてほしくない、といったように、私の要求は時と場合によって変化する。しかしながら、ポストの視点に立ってみれば、ポストは郵便物を入れるためのもので、投函されるということについては私の要求がどうであれ変わることがない。

さらに特筆すべきは、「画像による表現」として絵画や写真の画像について述べている点である。なかでも印象的であったのが、絵画と写真の画像そのものについて述べていた点である。

これまで写真論に関する書籍などを読むと、多くのものが「記録としての写真」や、「記憶としての写真」といったように、感覚的な展開を目にする機会が多かった。しかし本書では、「写真家が注意し選択したものの記録」とし、絵画も含めた画像とは「創作者が注目し注目しうるに値するとみなしたものを保存している」としている。生態学的視覚論視点から読み解くと、この写真に対する説明は非常に腑に落ちる内容であった。

著者によって何度も書き換えられ、最終的に行き着いた「構造の中に存在している名称も形もない不変項の配列」こそが、写真や絵画といった画像の本質であるのかもしれない。

[ その他(感想等) ]
視覚(見るということ)について科学的観点に基づく本書は、理系出身である私にとって基礎的な用語(光束、スペクトルなど)は理解し易く、読み進めていく上でも非常に明快であった。だがしかし、内容は非常に多岐に渡り、生態学、視覚論、物理や数学的な科学的アプローチだけではなく、心理学や哲学的な展開も多く含まれているため、やや難解ではあったが非常に読み応えのある一冊であった。

なかでも、これまでの知識から物理学的な視点から物事を理解しようとしていたのだが、本書にもあるように生態学的事象に基づいて物事を解釈することによって、これまで気付くことすらなかった物事の新たな視点に触れられたのが大きな収穫であった。

視覚野と視野世界の項目を読んでいるうちに、ふと、作品制作につながりそうなヒントが得られた気がした。

以下、備忘録として、アフォーダンスに関連する語句を記する。
・シンボル・システム理論
・シグニファイア(D・A・ノーマン)

[ 書籍情報 ]


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