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電車の席と、ヘルプマークと、スーツの人
今日は遊びに行く予定があって電車に乗っていた。乗ったときはかなり空いていて、端っこを選んで座れるくらいだったのだけど、何駅も行かずに人は増えて、虫食いだった空席は全て埋まってしまった。
しばらくして、ヘルプマークをトートバッグにつけた女性が乗ってきて、私の近くのドアの前に立った。「あっ、席譲ろう」と思ったはいいものの、臆病が悪さして「次の駅で降りるかもしれないし」と、声をかけられずにいた。ちょうど次の駅は割と大きな乗換駅だったのも「次の駅で降りる説」を補強してしまって運が悪かった。立っているのが辛そうだとか、息苦しそうだとか、明らかに座らないといけなそうな雰囲気があったらすぐにでも譲れたのだけど、そうは見えなかったから余計に躊躇した。でも、席を必要としている可能性だってある。なんならその可能性のほうがずっとありえる。
うーん。ええい、次の駅で降りていかなかったら声をかけよう。
そう決めた瞬間から私の心臓はちょっと速めに動いた。音楽を止め、イヤホンを外して、荷物を整理して、ふと顔を上げるとちょうど電車が減速し始めた。そして、止まる。その女性は降りずに、キョロキョロと周りを見渡した。彼女が私の方を見るのを待って、
「座りますか?」
と声を絞り出した。「いいんですか?」と言うので、「はい、どうぞ。」と言いながら私は席から立った。
駅で止まるたびたくさんの人が乗ってきて、立ったときにはドアの前にいたのに、どんどん人に押されて結局座っていた席の前あたりに立っていた。
そうこうしているうちに、私の真ん前の席が空いた。早く動けば、座れる距離だ。でも前にも人がいたし、私はそのまま立っている気だった。すると斜め前にいたスーツ姿の男性が私を見て、
「どうぞ、座ってください。」
と言ってくれた。
もしかしたら私が席を譲ったのを見ていたのかもしれない。あぁ、なんて優しい人なんだろう。「ありがとうございます」と頭を下げて、そこから20分ほど、目的地まで座って電車に揺られた。座れたことよりずっと、私の行動を誰かが見ていてくれたことが嬉しかった。
きゅう
髪の毛がいつもちょっとはね気味の高校生。将来は田舎に住みたい。言語学に興味がある。好きな食べ物はきゅうり。
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