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新恐竜がすごかった(ネタバレ感想)

8月7日公開の「ドラえもん のび太の新恐竜」見に行ってきました。あまりに良かったので感想と良さを語っていきます。

ネタバレを大いに含むので視聴済みの方のみ先にお進みください。





1.責任を持ったのび太たち

 この映画、ストーリーに一切無駄がありませんでした。私が見ながら予想していたもののうち当たったのはごくわずかで、後は大体予想を上回ってきました。全ての描写に意味があって、伏線に繋がっています。やってくれたな、今井一暁と川村元気。キューとミューの体格の違いとか、ただ単にキャラデザに違いを出すためかと思ってたらちゃんと意味があるなんて!そもそもその違いさえ、ドラちゃんが言うまで気付きませんでした…。

 キャラデザの可愛さとか、ワクワクっぷりとか、ギャグどころなんかは他の過去映画も良かったですが、ストーリーの良さは過去40作品の中で1位です。

 そして、のび太たちの行動が歴史を変えるターニングポイントに直結するということをのび太たちに実感させながら進んでいくストーリー。これまでのドラえもんでは「のび太たちが勝手にやったことが、後から見たら結果的に歴史のターニングポイントになっていた」という展開がほとんどだったのですが(「日本誕生」など)、終盤『チェックカード』というひみつ道具でそれをのび太たちに自覚させるという展開は新しかったです。だからのび太たちは無邪気な子供のようにはでなく、責任を持って(でも無我夢中で)行動していくんです。

 また、キューとミューを育てきって、白亜紀に返そうとする姿勢にも強い責任が感じられます。「わーい♪やったー!」って単純に喜ぶシーンもまぁありますが、①新恐竜を育てて②白亜紀に返し、③恐竜たちを救って④歴史を作るという非常に責任重大な役割を、つまずきながらも五感を揺り動かし、決意し、責任を持って行動するのび太たちはすごく凛々しかったです。

2.「のび太の恐竜」へのリスペクト

 ドラえもん好きを、いや全ての大人を驚かせたであろう中盤でのピー助の登場。予告も一切なかったしマジでびっくりしました。そしてのび太との再会に一切会話も説明もないところが最高に良かったですね。言葉がなくてもピー助ののび太への愛が伝わりました。「ピューイ(cv.幼き日の神木隆之介)」というあの声だけで、大人の涙腺を崩壊させにきました。

 「のび太の恐竜」のリメイク版が公開されたのは2006年、14年前なので、今の小学生たちはまずピー助を知りません。そのため「雲の王国」でのドンジャラ村のホイくんやキー坊のように、分かりやすい説明付きで再登場させ、のび太と手を取って対面させるという手もあったでしょう。でもそうしなかったということは、これはきっと昔からドラえもんを知っている大人たちへのファンサービスです。ドラえもんではこういうファンサービスは今までありそうでなかったですね。子どもたちは映画を見終わって映画館が明るくなった時、「ピー助が…」と隣で泣く自分の親に困惑するでしょう。

 さらに思い返すと、実はピー助も最初は何も食べようとしなくて、マグロのお刺身を与えてみたら初めて美味しそうに食べたのでした。拾った化石をタイムふろしきでタマゴにして孵すとか、序盤は結構「のび太の恐竜」に似ていましたね。しかし前述したように、今作ののび太は責任を持ってキューとミューを育てていくし、キューがマグロも吐き出してしまうという一筋縄ではいかない展開に「のび太の恐竜」との差別化を感じました。

 またこれも良いなぁと思ったのは、劇中冒険の「過程」に時間を割いているところです。近年の映画だと、のび太たちが割とすぐに新世界に着いて、そこで映画限定キャラクターに出会って、そこから1時間半くらい冒険する…って展開が主なんですが、この映画は起承転結の「承」が長いんです。

 実は第一作の「のび太の恐竜」も「承」を生き生きと描いた映画でした。子どもにとって一番ワクワクするのは、未知の世界を探検するその「過程」じゃないでしょうか。未知なる場所を、どこまでも際限なく進んでいく、あの自由な感じ。それに気づいてのび太たちにたっぷり冒険してもらう藤子・F・不二雄先生はやっぱり巨匠ですね。今作でものび太たちとキュー&ミューがどこまでもタケコプターで旅をしていく様に、初期映画へのリスペクトを感じました。

3・成長(≒進化)する物語

 これまでの映画ドラえもんのテーマは、一言で言うと2018年の宝島が「家族」、2019年の月面探査記が「友情」だったと思います。

そして、新恐竜のテーマは「成長(=進化)」だったんじゃないでしょうか。

 ポスターにあるキャッチコピーの「ハロー!新のび太。」これ最初はクサいコピーだなぁと思ってたんですが(失礼)、見終わってから180度見え方が変わって、この上なく素晴らしいキャッチコピーだと思いました。ラストでついにキューが飛べるようになり、恐竜(翼竜)から鳥類という「新恐竜」へ進化した後、のび太も練習の末逆上がりが出来るようになって「新のび太」に成長(=進化)したってことだったんですね。キューとのび太が一緒に飛ぶ練習と逆上がりの練習をしていた木の下でのシーンなど、劇中で分かりやすく示唆されていたテーマだったと思います。

 さらに深く語ると、これまでの映画ドラえもんでは、キューはミューや新恐竜たちと同じく翼竜になっていたと思います。キューは他の仲間たちに追いつく代わりに、自分の個性を失っていたでしょう。しかしキューは他との違いを個性として認め、自分の良さを伸ばした結果鳥の祖先へと進化しました。のび太の「キューもミューみたいに出来るはずだよ!」的な言葉が無意識にプレッシャーになっている様子も描いており、その姿は多様性を認めようとする現代の暗喩にもなっていたんじゃないでしょうか。

 もちろん大冒険を繰り広げた後ののび太も、逆上がりが出来るようになっただけでなく、育てることの大変さや、責任を持って行動することの大切さも知って成長したでしょう。ラスト現代に戻ってきた後、それまでただの風景にしか見えなかった鳥やその鳴き声さえ、すごく感動して見える…。生物の成長と進化を現代の問題も合わせて描く最高に素晴らしい物語でした。

4.まとめ

 最後に、ソーシャルディスタンス映画館も結構よかったぞって話をしておきたいです。まずお子さんがあまり騒いでませんでした。私としては入場者プレゼントで遊び、ポップコーンを落とし、時には走り回る元気な子供たちがいるのがドラえもん映画の醍醐味だと感じているので、それがないのは少し寂しくはありましたが、そもそも子どもって親が隣に座っているから喋ったりしていたんですね。一人で座ると集中して見れたのかもしれません。また、鑑賞中号泣しても一席おきなので周りにバレません。一緒に行った友達が泣いていたことに、終わって明るくなって初めて気づきました。

 他にもアニメーションの動きの素晴らしさとか、最新の学説を取り込みつつロマンたっぷりに仕上がった魅力的な恐竜たちとか、キムタクと渡辺直美とミスチルとか、良さはいっぱいあるんですが語り切れないのでこの辺でやめます。

 「新恐竜」は、今までのドラえもんとは違いました。OPもなかったし、子ども向けのいかにもワクワクドキドキ!波乱万丈大冒険!的なものではなく、どう感じるかは私たち観客に全て委ねられていました。とりあえず、今度もう一度見に行こうと思います。