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観劇日記:ミュージカル 四月は君の嘘

配信チケット舞台やライブは何度となく行っていたものの、なかなか書き起こす時間が取れず早数ヶ月。久しぶりに筆を取ったのは、「ミュージカル 四月は君の嘘」。こちらは5月の日生劇場に3公演、突発で富山に1公演、そして博多座の配信を視聴した。
この投稿時点でも配信チケットはまだ1公演のみ、7月9日20時まで購入可能(https://www.hakataza.co.jp/lineup/202207/kimiuso/kimiuso_haisin/index.html)なため、興味ある方は是非。視聴期限は同日23:59まで可能で、配信時間は2時間40分程です。

『四月は君の嘘』は月刊少年マガジンで連載されていた漫画作品であり、アニメや実写映画化もされている。本作は中学生のピアニストとヴァイオリニストが互いの才能に共鳴し合い成長する姿を描いた作品である(Wikipediaより抜粋)。今作はミュージカル版として制作された物である。元々は2020年の上演を予定していたもののコロナ禍の影響で一度は中止を余儀なくされたが、この2022年にagain上演を果たした。

本ミュージカル版のストーリー構成は原作と少し異なっている。例えば、原作では中学生として描かれていたが、本作では高校生として出演している。そして、全11巻を2時間超で上演しているため、有馬公生・宮園かをり・澤部椿・渡亮太の4人によりフォーカスされた形に再編されている。有馬くんのピアノのライバルあるである井川絵見と相座武士は、絡みこそあるが2人の再会後の変化はほぼ削られている。また、相座くんの妹である相座凪、有馬くんが師事する瀬戸紘子、椿ちゃんが一度付き合うことになる斉藤先輩らは出演しないように構成されている。紘子さんが有馬くんに伝える言葉の一部(例えば、聞こえないことは贈り物)はかをちゃんが告げている。また、ガラコンの時は有馬くんの側に紘子さんがいるが、代わりに椿ちゃんと渡くんが実行委員や三池俊也を説得する役割を担っている。

作中で起こる出来事も、話の筋道が合うように再構成されているが、遜色は感じられなかった。本ミュージカルでは主要キャストを務める4人が中心であるが、ストーリーとしては特に有馬くんとかをちゃんの2人が心を交わす部分が厚めに描かれている。序盤は2人の出会いから共に演奏するまでがしっかり語られている。その後は有馬くんがかをちゃんとの関わりの中で新たな一歩を踏み出す場面が多いように感じられた。2人の気持ちの推移をより感じられる構成であるという印象を受けた。

以下はやや長くはなるが、ミュージカル版で描かれたストーリーの流れである。

有馬くんがピアノを弾けなくなった状況を歌う演出で始まり、椿ちゃんが窓ガラスを割ってやってくるところから有馬くんを誘い出し、かをちゃんと印象最悪で出会い、ヴァイオリン1次予選でかをちゃんの演奏に有馬くんが目を奪われるところまでの流れは変わらない。ここで場面が春から夏へと移り変わり、渡くんが最後の夏の大会を迎える。かをちゃんと有馬くんの代役デートはこの試合後の出来事として話が進む。カフェで食事後に弾けなくなった理由を話すと、有馬くんの家に行く流れを挟み、有馬くんの家で伴奏に任命する。その後はすぐに2次予選の日となり、原作通りの流れで2次予選は推移する。

舞台は後半戦になり、2次予選でかをちゃんが倒れた後に葛藤する有馬くんの心情を歌う演出から始まる。退院したかをちゃんのお見舞いという形で、有馬くんら3人で宮園家を訪れてみんなでケーキを食べる。その後に忘れ物があるとかをちゃんが有馬くんを追いかけてガラコンへの招待状と演奏曲『愛の悲しみ』を伝える。この時に「君は忘れられるの?」と共に演奏したコンクールの時を振り返り、2人でなら旅立てると歌って川に飛び込む。続くガラコンでは、原作と同様にかをちゃん不在の中で有馬くんが『愛の悲しみ』のラフマニノフ編曲をソロ演奏で披露する。その後に3人で訪れたお見舞いでは、かをちゃんがお詫びという形で有馬くんにコンクール参加を促した。その後はかをちゃんの外出許可を学園祭への参加として描き、4人で学園祭を回る場面から有馬くんとかをちゃんが2人で流れ星を眺める場面へと推移する。その後は体調を崩したかをちゃんを有馬くんが車椅子で病院に送る。道中で忘れられない思い出を振り返るも、容態が良くないことを告げられる。作中でも印象的なセリフである、『いちご同盟』から引用した「あたしと心中しない?」や、「忘れちゃえばいいんだよ、リセットボタン押すみたいに、ポチッと」などはこの一場面でかをちゃんから告げられている。そして、渡から見舞いに行こうと誘われるも有馬くんが断る場面や、有馬くんがかをちゃんに電話する中でこの気持ちが恋だと気づく場面がその後に入っている。その後に有馬くんはカヌレを持ってかをちゃんのお見舞いに行き、屋上でかをちゃんがコンクールの日に手術を受けることを伝え、「奇跡なんて簡単に起こっちゃう」と有馬くんを後押しする。コンクールの場面では、渡くんがかをちゃんからの言葉を伝えて後押しする場面を挟み、演奏のシーンに入る。有馬くんの演奏にかをちゃんの手紙の言葉を重ねながら、原作の通り、有馬くんがピアノに、かをちゃんが手紙に自分の好意を乗せて想いを伝えた。そして最後、手紙を読みながら振り返る中、椿との会話をしたのちに幕を閉じた。

個人的には、かをちゃんが共に演奏した2次予選を除き有馬くんの演奏を見ることがなかったため、憧れだった有馬くんの演奏が見れた方が心に悔いなく旅立てたのかな?と思った。原作にあった予選でかをちゃんのために弾く場面があったらもう少し報われた印象になったのかな?と感じた。また、渡くんがお見舞いの時に図書室の本を持ってきた場面では、『いちご同盟』を有馬くんが過去に読んでいたことがわかる描写があると、その後で発する引用したセリフのインパクトがもっと感じられたかなと感じた。もう一つ、かをちゃんの容体が悪く有馬くんがお見舞いをためらう場面で、椿ちゃんが歌唱曲の合間に「かをちゃんは渡が好きなんだよ」とだけ告げるが、「あんたは私と恋をするしかないの」まで言ってくれると確実にきゅんときた。わたしが。

個人的に「この場面がほしかった」という物はあるが、2時間超という限られた時間内で登場キャラクターの心情の機微が描かれていて、何度見ても満足が得られる作品となっていた。

また、本作は音楽を題材にした作品なので、ミュージカルとして披露することで音楽への重きがとても感じられた。音楽作品ながらも楽器隊を客席から見えるところに配置しないことで、実際に演奏してるように見せる工夫があるのかな?というのも印象に残っており、カーテンコールで指揮者の方がちょっと現れるのもジーンとくるものがある。

主要キャストに割り当てられた楽曲はそれぞれキャラクターの特色とストーリーの要点を抑えているためどの楽曲もよく記憶に残るが、個人的にはアンサンブルが織り成すハーモニーの迫力が圧巻だった。楽曲としては、コンクールなどの場面で歌唱される「One Note」が特に印象深い。この楽曲中にひとりひとり歌う箇所もあり、そこでも圧倒されるような音質が浴びられるが、重なり合うことでより重みある歌声に化ける。場面展開としてもコンクールなど有馬くんが新たな一歩に赴く場面で歌われるため、緊迫した空気感が曲調とパフォーマンスから伝わってくる。
「The Beautiful  Game」はサッカー部最後の試合で披露される楽曲で、渡くんが主となり披露されるが、サッカー部のメンバーや応援に来ている生徒たちも共に歌っている。渡くんが他の人たちと声を重ねることで迫力を感じるパフォーマンスとなっている。

少しばかり先述したが、各キャラクターの歌唱曲では作中の様々な場面で使用されたフレーズが散りばめられている。ヒューマンメトロノーム、まるで映画のワンシーン、などである。これらの曲はストーリー展開の要所で歌われており、ミュージカルらしく物語をカラフルに輝かせている。
「君がわからない」は物語の序盤、有馬くんとかをちゃんが2人でカフェに行く場面で歌われるが、知り合ったばかりでまだお互いのことがわからない様子を軽快な音楽に乗せて描いている。
「Speed Of Sound 〜カラフルに輝きながら〜」は、かをちゃんが有馬くんにお願いをした後に4人でコンクール会場へ向かう場面で歌われるが、かをちゃんの誘いを受けて一歩進もうとする有馬くんを後押しすような渡くん・椿ちゃん・かをちゃんの歌唱が素晴らしいが、そこにアンサンブルの歌唱も重なることでさらに迫力が加わる。そして転調を受けて有馬くんの意を決して一歩踏み出す歌詞からもうひと盛り上がりすることで、コンクールに臨む有馬くんとかをちゃんの未来をカラフルに描いている。
「流れ星をつかまえよう」は、ガラコン招待の件を伝えた後、参加をためらう有馬くんに対して「君は忘れられるの?」と2次予選での共演後の歓声を思い浮かべて参加を誘う場面で、2人でなら歩める新たな旅立ちへの希望を描くような明るい曲調になっている。歌い始めから転調を経て、2人で重なるハーモニーがカラフルな世界を想起させる。
長くなるので他の楽曲は割愛するが、各楽曲が場面とキャラクターと見事に調和するように作られているのも作品の彩りとなっており印象的だった。

また、出演者もそれぞれがキャラクターらしさを出していた。主役の有馬公生は小関裕太と木村達成のダブルキャストだが、どちらが演じる回を見ても有馬くんらしいと感じられた。有馬くんの感じていた葛藤と、かをちゃんとの出会いを受けて前向きに変化していく様子がうまく演じられていた。渡亮太も水田航生と寺西拓人のダブルキャストだが、同じく渡くんらしさが感じられた。こちらは2人それぞれに少しばかり色の違いが個人的には見られたが、その色も含めて渡くんらしかったと感じられた。
澤部椿は唯月ふうかが演じていたが、ハツラツとした演技はまさに椿ちゃんといった印象を受けた。時に有馬くんに向ける視線にも、椿ちゃんならではの揺れる心が乗っており、心情の機微が表されていたと感じる。特に学祭の場面では、渡くんとかをちゃんの2人を眺める有馬くんをさらに眺める椿ちゃんの構図がその視線や歌唱曲から表れており、その後のかをちゃんか有馬くんを流れ星に誘う場面で視線を向けるが去っていく姿なども、有馬くんへの好意に揺れる椿ちゃんらしさが出ていたと感じる。
本作のヒロインである宮園かをりは生田絵梨花が演じていたが、かをちゃんの天真爛漫な部分が持ち前の性格にも合っていると感じた。食を前に嬉々とする姿や傍若無人な振る舞いをする姿にはグループ活動でのいくちゃんの姿がわたしには重なった。他方で、死と直面する役どころならではの不安な心情表現も合間に見せており、そうした不安や悲しみの心情も振る舞いや表情から感じ取れた。特に、最初の予選後に自分の演奏がどうだったかを有馬くんに尋ねる場面や、2次予選での伴奏を再度お願いする場面での表情や声色が印象深かった。この場面からのSpeed Of Soundが素晴らしかったのだが、これは既に前述なのでここでは割愛する。
こちらも長くなってきたので他の出演者に関しては割愛するが、各出演者がそれぞれのキャラクターの個性にマッチしており、原作と比べても遜色なく見られると感じた。

気持ちに任せて書いてきたが、このミュージカル 四月は君の嘘が上半期が終わった段階ながら2022年至高の作品であったとわたしの中では感じている。原作から素晴らしい作品であったが、ミュージカルとして作られた本作品も原作と見比べても遜色なく、そして1ミュージカル作品としても素晴らしいと感じた。願わくば、この作品が今後再演されることを、そして今回のメンバーでの映像作品化を個人的には期待したいという気持ちで末筆とする。

今年もいくつか見てきているので、余裕あるうちに記録を残していきたい。

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