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インタラクティビティを再定義する

2020年7月25日(土)と26日(日)の2日間に渡り「インタラクティビティを再定義する」をテーマにしたオンライン合宿形式のイベントを開催します。このイベントを主催するのは、私が研究代表者となっている、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]のプロジェクト「Archival Archetyping」です。研究分担者のクワクボリョウタさん(アーティスト)、松井茂さん(詩人・研究者)、多様な分野出身の7名の学生たちと共に、日々全力で議論を重ね、準備に取り組んでいます。以下、チームの代表ではなく、一人のメンバーとして紹介してみたいと思います。

今回のテーマとなっている「インタラクティビティ」という言葉が指す範囲は非常に広いものであり、これまでに様々な人々が様々な作品を制作してきました。例えば1990年代には、メディアとしてCD-ROM、プラットフォームとしてPCを用い、鑑賞者の操作に対応して映像、音声、アニメーションなどを柔軟に再生できるマルチメディア作品が多数制作されました。続く2000年代には、世界中にデータを瞬時に転送できるインターネットの普及に伴い、PC上のウェブブラウザをプラットフォームとして様々なウェブサイトが制作されました。さらに2010年代には、PCからスマートフォンへと主要なプラットフォームが変化し、物理空間と情報空間が重なり合い、至る所にインタラクティビティが溶け込んだ世界が当たり前になりました。

現時点において、インタラクティビティの最先端を体験できるのは、恐らくオンラインゲームでしょう。例えば、スクウェア・エニックスの《ファイナルファンタジーXV》(2016年〜)、Epic Gamesの《フォートナイト》(2017年〜)、任天堂の《あつまれ どうぶつの森》(2020年〜)などのオンラインゲームにおいては、ライブ、展覧会、卒業式、結婚式、葬式など、ゲーム制作者たちの想像力を遙かに超えた多様な社会的活動が次々と展開され、新たな文化と呼べるものが醸成されつつあります。こうしたオンラインゲームの世界を構築する上で欠かせない要素となっているのが人工知能です。2010年代には、インターネットやスマートフォンの普及、深層学習に代表される機械学習アルゴリズムの発展を背景に、人々の活動をデータとして学んだ人工知能を構築することが可能になり、オンラインゲームだけでなく、Facebook、Twitter、Instagramなど、様々なSNSを構築する上での歯車となっています。こうした状況下で、人工知能の可能性や課題を考えるため、私があらためて注目してみたいと考えたのがインタラクティブなアート作品です。

数十年前、コンピュータが非常に高価で、扱えるエンジニアも限られていた時代、インタラクティブなアート作品を制作できるのは、資金や協力者などを得る幸運に恵まれた一部のアーティストに限られていました。しかしながら、ゲーム、ウェブサービス、スマートフォンなどが産業として飛躍的な発展を遂げ、それらのために開発された様々な技術が利用可能になった現在、何か新しいことを最小限の資源で試してみるための現場という視点で大規模オンラインゲームなどと比較したとき、実は、インタラクティブなアート作品は最もハードルが低いものの一つといえるのではないかと私は考えます。これは必ずしも肯定的に捉えられる見方ではないでしょうし、異論もあるでしょう。それでも、人と機械、人文知と工学知の界面において多様なスキルと共通の関心を持つ人々が集まって行う制作と、その成果物である作品の体験にこそ、最小限の資源で可能性や課題を顕在化させられる現場があると私は考えます。それゆえ、人が機械と共生する世界が現実のものとなりつつある今、インタラクティブな作品を通じて、インタラクティビティとは何かを、あらためて問い直してみたいと思ったのです。

インタラクティブなアート作品に関して、アーティストのJim Campbellは2000年の短い論文において次のような「公式」を示しました(2000年代にはウェブブラウザ上でインタラクティビティを実装するための事実上の技術標準の一つだったFlashを用いてCampbellのウェブサイトに掲載されているアニメーションは、アーティストのGolan Levinによるツイートにより、Flashを利用できない環境でも見ることができます)。

この「公式」に示されている通り、インタラクティブな作品は、鑑賞者の行動や環境などの情報を入力として、これを解釈するアルゴリズムを作者がプログラミング言語で記述し、映像、音声、環境の変化などの出力にマッピングすることにより、鑑賞者が作品を体験し、作者と対話します。ここに、機械学習が加わるとどうなるでしょうか?

従来のプログラミングでは、人がプログラミング言語を用いてアルゴリズムを記述します。これに対して機械学習では、機械がデータからルールを学び、アルゴリズムを記述します。この新しいプログラミングパラダイムでは、作者の記述力を超えた記述が可能になるだけでなく、鑑賞者と対話していく中でフィードバックを受けて学ぶことによりアルゴリズム自体を書き換えていくことすら可能になるかもしれません。これが、「インタラクティビティを再定義する」というテーマに私が込めた主要なメッセージです。

このテーマに関しては、私たちもまだまだ手探りで進めている段階であり、正直に言えば、参加者のみなさんの期待にお応えできるような内容になるかどうか全く自信はありません。しかしながら、そもそも、未知なる何かを探究するという活動は、垂直思考であらかじめ見えているゴールに向けて地図を頼りに着実に進んでいくのではなく、自分たちの直感だけを頼りに水平思考でジャンプしてみた結果、幸運にもたどり着けたときに初めて論理的に説明できるものだと思います。そうした視点から、既に分かっている目的地に向けて主催者が予定調和的に誘導して参加者が満足感を味わう「ワークショップ」ではなく、萌芽的なテーマに主催者も参加者も渾然一体となって取り組み、次の段階へと進むための基盤を醸成する「workshop」として位置付けました。

もし、この文章を読んでいただいて何か引っかかるところがあった方は、ウェブサイトで詳細を確認の上、参加登録していただけたらと思います。アート、デザイン、機械学習、ゲーム、哲学、広告など、既存の区分を問わず「インタラクティビティを再定義する」というテーマに興味を持つ人々全てが対象です。ぜひ、私たちと一緒に取り組みましょう!

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基本情報(抜粋)
日時:2020年7月25日(土)・26日(日)、10〜17時(予定)
場所:オンライン(Zoom、Slackなどを予定しています)
言語:日本語
参加費:無料
定員:20名(応募者多数の場合は選考いたします)
参加申込〆切:7月16日(木)23:59
選考結果通知:7月17日(金)


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