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歓声と拍手の中に誰かの悲鳴が隠れている

「出来るだけ嘘は無いように
どんな時も優しくあれるように
人が痛みを感じた時には
自分の事のように思えるように」
ー『水平線』back number

人間にとって1番大事なことはなんだと思うだろうか?私が思うのは「共感力」だ。人との関係において最も私が重要だと考えていることだ。よく人の話を聞き、それに対して誠実に向き合い、しっかり相手の喜び、痛みを感じる。
どんな時も優しく、人の痛みを自分のことと思えるように。

そんな人間は間違いなく、人を幸せにできる。作詞した清水依与吏さんにこのしずかちゃんのパパの言葉がよぎったかどうかはわからないが、そんな人間になってほしいとの思いではないだろうか。

この曲ができた経緯は、コロナウイルス感染拡大の影響で、インターハイが史上初の中止となったことによる。運営を担当する高校生たちからback numberに手紙が届いたことから作った曲だ。

「正しさを別の正しさで
失くす悲しみにも出会うけれど」

この詞がまさに今回の出来事を形容している。インターハイという、高校の体育系部活動の最終目標に向けて、とんでもない準備をしてきた。ただひたすら真っすぐに打ち込んできた。これは、正しい。が、しかし、誰のせいでもない事態の急変により、別の正しさが、自分のやってきたことに対し、NOを突きつけることとになった。このやるせない気持ちはどこにぶつければいいのだろうか、どこにぶつけても解決できないのに。

「水平線が光る朝に 
あなたの希望が崩れ落ちて 
風に飛ばされる欠片に 
誰かが綺麗と呟いている」

希望が崩れ落ちた時、当事者は何も見えなくなってしまう。そこに懸けてきたものが崩れ、目の前の灯りが真っ暗闇に包まれてしまう。そんな話を聞き、第三者は、美しいとさえ思う。「ドラマのような展開ですね。」「美しい涙ですね。」と美化するのだ。

「透き通るほど淡い夜に
あなたの夢がひとつ叶って
歓声と拍手の中に
誰かの悲鳴が隠れている」

この詞がとてもたまらない。誰かの夢が叶ったとき、その裏側で誰かの夢は叶わないことがある、その痛みも感じてほしいのだ。back numberはいつでも痛みの存在、表裏一体の関係にある逆の感情を教えてくれる。この詞もそれを伝えている。

「いつでもそうなんだ どっかで誰か泣いていて
そのとなりの部屋では 誰か笑っていて」
ー『bird’s sorrow』back number

この歌の最後は、さっき崩れた希望の欠片をいつかあなた自身が見るのだと伝える。

「水平線が光る朝に 
あなたの希望が崩れ落ちて 
風に飛ばされる欠片に 
誰かが綺麗と呟いている 
悲しい声で歌いながら 
いつしか海に流れ着いて 
光って 
あなたはそれを見るでしょう 
あなたはそれを見るでしょう」

正しいと信じ、進んできたインターハイへの道が誰のせいでもない理由でなくなった。希望は崩れ落ちた。その様子をみて、世の中は軽々しく、「美しい涙だ」という。
でも、その決断は、誰かが痛みを感じて、それを推し量って、誰かを守るために行われたものであった。
この未曾有の事態で困っている人の痛みを自分のことと思ってほしい。
そんな大人になってほしい。
そうなった時に、いつしか、このことを思い出して、その崩れ落ちた希望をまた見ることになるのだ。

清水さんは、いつしかその希望の欠片を見たときの感情までは描写していない。いろいろなことを経験し、悩んだ、ゴールであなたはどんな感情を抱くのだろうか。そんなメッセージを歌に乗せたのではないか。

「費やし重ねてきたものを発揮する場所を失くす事は、仕方ないから、とか、悲しいのは自分だけじゃないから、などの言葉で到底納得出来るものではありません。選手達と運営の生徒達に向け、何か出来る事はないかと相談を受けた時、長い時間自分達の中にあるモヤモヤの正体と、これから何をすべきなのかが分かった気がしました。先人としてなのか大人としてなのか野暮な台詞を探してしまいますが、俺たちはバンドマンなので慰めでも励ましでも無く音楽をここに置いておきます。」
清水依与吏(back number)

バンドマンの粋なはからいに対して野暮な台詞をつけてしまいましたことをお許しください。

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