見出し画像

魅惑のシナボン 前編

シナボンが好き! 無性に食べたくなることがある。
今オンライン販売してるらしいよーー。
今だけ、5月18日までらしいよーーー。
近くにお店が無い方は今がチャンスだよ―――。


「ふーん、また似たようなのが来るのかー」
1999年、アメリカで大人気のお菓子が日本に来るとの話を友達から聞いた時の私の感想だ。当時は、ティラミスにタピオカにナタデココ、食べたことのない珍しいお菓子が2年ごとぐらいで海外から来て、大きなブームを巻き起こしていた。そのブームは1時間並ぶような大行列を呼び、後から参入する会社もいくつかあったほどだ。ちょうど、今大人気の黒いモチモチしたタピオカドリンクが起こす現象みたいな感じだろうか。

名前はシナボンって言うらしいよ、と友人は言った。シナモンロールみたいなものだけど、似て非なるものらしい。「1号店は吉祥寺にできるんだって」友人は色々情報を持っていた。

吉祥寺かあ。それなら行ってみたい。珍しく興味を持った。吉祥寺は私の活動圏内だった。並ぶのは苦手だけど様子だけ見に行ってみよう。自転車を引っ張り出して、吉祥寺のサンロードに行った。サンロードは吉祥寺駅を出たところから続く屋根のあるかなり長い商店街で、たくさんのお店が軒を連ねていた。シナボンはそこに店を構えたということだった。

サンロードを入ってすぐにあるみたい、との話を思い出しながら入口から一軒一軒確認する予定だった。ところがそんな手間は不要だと知ることになる。サンロードに入ってすぐ長蛇の列が見えた。まさか、この行列なの? 列の先頭を見に行く。辿っていくとだんだんいい匂いがしてくる。焼き立てパンにたっぷりシナモンシロップをかけた様な、あま~い匂いだ。

お店では実演もやっていた。出来上がったばかりのシナボンは湯気があがりふっくらと美味しそうだった。それでも行列が苦手な私は後ろ髪を引かれながらもしばらく加熱っぷりが落ち着くのを待つことにした。

約1年後、忘れかけた頃に再びサンロードに行く機会があった。ふとシナボンのことを思い出して向かった。お店の前に並んでいたのは10人位。大行列も少しは落ち着いたのかな、と思いながらその列に並んだ。1年前と同じくいい匂いが店内から流れてきた。

会計を済ます。シナボンを受け取る。聞いてはいたけど、大きくずっしりしている。買ったのは定番の人気商品「シナボンクラシック」1つ。当時マクドナルドのビックマックが、つぶれないように紙の箱に入っていたがその箱と似ていた。つぶれないように持って帰れるのはありがたい。そのまま帰ろうとしたけどどうにも美味しそうな匂いに我慢ができない。出来立てを一口食べてみたくなる。列に並んでいる時に感じていたいい匂いが更に強くなり鼻をくすぐる。それほどにシナモンとクリームの甘い香りが私を刺激する。私の前に買った人が数人、店頭で食べていた。どうやらフォークをもらえるらしかった。

出来立てを食べたい誘惑を抑えられない。箱を開けてみる。とろ~りとろけたブラウンシュガーとアイシング状のクリームを見せられては魅せられてしまう。鼻と視覚を支配されてしまう。店員さんからフォークをもらうことにした。覚悟は決まった、いざ。出来立てのシナボンを頬張る。

パンがしっとりモチモチ、練乳とミルクを混ぜた様な濃厚なクリーム、それにシナモンが効いたシロップ状のものが一度に口の中に広がる。今まで食べたことのない味だった。アメリカから来たお菓子だから相当甘いんだろうなと思いながら食べてみたけどそこの予想は当たっていた。でも、シナモンをしっかり効かせていることで甘い中に引き締め効果もある気がした。このバランスがいいのだろう。一口だったつもりが、気づいたら半分、そしてぺろりと平らげ、熱々のため流れて箱に溜まっていたシロップを名残惜しくフォークでかき集めて舐めている私がいた。食べ終わったばかりなのにまた食べたい。シナボンはそう思わせる食べ物だった。

そして再度買いに行った。今度は家族の分も買った。人数分買ってきた私に「大きいよ、半分ずつで良かったんじゃない?」と私の第一印象と同じことを言った。それなのに、食べ始めるとみんなぺろりと平らげる。シナボンはそんな不思議な魅惑の食べ物だった。

そうやって何度か楽しんだシナボンだったけど、2009年、日本から完全撤退することになってしまった。この頃はパンケーキ人気が加速していたころだったかな。残念ながらシナボンは日本から無くなってしまった。撤退までするってちょっとすごいことだよね。それだけ、流行り廃りの差が激しいんだろうな。

時折無性に食べたくなるシナボン。シナボン食べたい、シナボン食べたい、の気持ちがかなり高まったある日、朗報を耳にする。シナボンが戻ってくるという話だった。

2012年、シナボンが帰ってきた。再上陸という言い方をよく聞くけど、私は「おかえり!」という気持ちが強いので帰ってきたという表現になる。

今度は新しい商品を連れて帰ってきた。「ミニボン」の登場だ。

~ちょっと長くなったので続きは後編へ~

※ヘッダーイラストは「みんなのフォトギャラリー」からF・kawabataさんの写真を使わせていただきました。ありがとうございます。

この記事が参加している募集

#私のイチオシ

50,892件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?