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共鳴

分かるときは分かるし、分からないときは、分からないから。進むときは進むし、進まないときは全然進まないよ。どんだけ、考えたって。

無責任に、放った言葉ではなかった。やけに長く間をとった句点がそれを物語っていると思った。どうして、と思う。後で反芻すれば、そりゃそうだと薄っぺらく見えてしまいそうな言葉が、どうしてあの口から発されると真理をついているように思えるのか。自分にじんわり広がった何かを、覚めてしまった夢を辿るかのように思い返す。分からない。どんな表情をしてその言葉を発していたのだろう。覚えていない。

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昔から言動一つひとつに疑問を持って、その理由に思いを巡らす癖が煩わしかった。癖の始まりは覚えていないから、きっと疑問を辿って得た気づきで感謝されたとか、よく見ているねと褒められたとかそんな簡単なことなんだと思う。とにかくぼんやりしているように見える時さえも、頭の中は「へぇ、きっと〜だから〜したんだろうな。この前もだったから。」といったような分析と統計が静かに行われていた。そのせいかたくさん人に会った日なんかはその謎や分析で頭や心がいっぱいになってストレージが足りなくなる。…なのに日頃から人にたくさん会う仕事であるから定期的にそうなって、私を悩ませていた。

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その日も結構な数の違和感に出くわした日だったと思う。知っていたはずなのに、あの人はなぜ知らないふりをしたのか。なぜ少し言い淀んで流したのか。小さくてかわいいドーナツを急にわざわざ遠くまで届けてくれた理由は。「も」に含まれた他の同類は何なのか。ふいに笑ったのは。いつもなら心地よいはずのものに心がざわついたのは…

見過ごせなかったあれこれを整理しているのを、横でなぜか愉快なものでも見るかのように眺められ不機嫌になりかけているのを悟って、あの人は崩した姿勢を正す。「なに?」ふてくされた自分の声が冷えた部屋に響き、ハッとする。もうこんな時間だ。そんなに長いこと、耳を傾けていてくれたのか。急に申し訳なくなる。それを見透かしたかのように笑うと、ゆっくり口を開いた。



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記憶の断片。

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追伸

好きな言葉は何ですか?と最近問われて、私は「共鳴」と答えました。頭にふと浮かんだのだけど、とてもしっくりきていて。きっとこれからも好きだと思う。そうだ、kan sano&石川征樹のアルバム「共鳴」の「part2」が綺麗です。深い、静かな夜に合うと思うんだ。



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