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都市計画先進国オランダの"お家芸" 古建築再活用事例3選

先日Good News for Citiesのポッドキャストを聴いていたら日本の空き家問題について触れていた場面が。そういえばオランダでのお気に入りスポットの多くは古い建物を用途を変えて活用している場所が多いけど、日本の空き家・空き建築物の活用ヒントにならないかしらと思いあたり、noteにいくつか書き出してみることにしました。

オランダ建築でもサーキュラーがキーワード

自転車フレンドリーかつ美しい運河の街並みが印象的なアムステルダム、世界大戦後に多くのモダン建築が同時期に建て上がったロッテルダム、そしてデ・スティル時代からOMAやMVRDVらに続くモダン建築と、オランダは言わずと知れた都市計画&建築大国。

それと同時に、サーキュラーエコノミーの分野でも世界のトップに躍り出るほどその名を馳せている(参照:IDEAS FOR GOODIBM電通報green growers)。首都アムステルダムが2050年までに完全循環型経済(サーキュラーエコノミー)を掲げるやいなや、ドーナツ経済学の概念がバズったり、日本をはじめ各国からサーキュラーエコノミー視察団が派遣されたりと、この話題の中心としてふさわしくオランダは私たちに洞察を提供し続けてきた。

そんな背景から、この国の各地で建物の再活用が活発なのも頷けるだろう。全てを網羅するには筆者の知識と体力が到底間に合わないほど数が膨大なので、今回は現時点での筆者の筆頭お気に入り活用事例を3つ紹介する。

1. Schiedam Library De Korenbeurs (Schiedam)

中庭が読書スペースになっている

<元穀物貿易所、現公共図書館>
Rotterdam中心地から公共交通機関か自転車で20分ほどの近郊Schiedamにある公共図書館。私が奨学金をいただいているロータリー財団の現地ホストが案内してくださり、知った場所。地面が少し傾斜しているのがそのままになっている(オランダは海抜が低く地盤が緩い古建築が多め)、との小話をいただいたので、ぜひ体感してみてほしい。

De Korenbeursは18世紀末に穀物の貿易所(後にSchiedamの特産であるJeneverというジンの発展に貢献)として建てられ、20世紀初頭にその役割を終了。数十年後に現地ロータリアンの1人が建物を丸ごと買い取り、複数回の改築を経て、2015年に公共図書館としてオープン。その歴史を物語るように、中庭にはジンのグラスでできたシャンデリアが飾られている。

ジンのグラスでできたシャンデリア

元々吹き抜けになっていた中庭をそのままに透明の屋根をつけ、日陰になる部分は書架を、日が当たる部分は憩いの場を、そして2階部分は書架の他に多目的ルームや建物の歴史の展示スペースを設け、市民のオアシスとして機能している。入り口にはカフェがあり、和やかな時間が流れていた。もっと知りたい方はこちらの建築事務所ページへ。

"一冊の本は庭でもある、ある人がポケットに忍ばせられる庭である。"

2. LocHal (Tilburg)

印象的なカーテンは徒歩圏内にあるテキスタイルミュージアムが制作

<元機関車修理所、現公共図書館>
また図書館か…と思ったあなた、スキップしないでぜひ目を留めてみて欲しい。なんせ主用途は同じとはいえ、規模感や空気は全くの別物。OMAに勤める知人から「カーテンはレム・コールハースのパートナーがデザインしたのよ!」と推され足を伸ばしてみたところ、シャープさをほどよく備えたカーヴィーなカーテン、建物のインダストリアルさ、そしてダイナミクス溢れる仕切り方の調和に筆者はひとりで大興奮。

Tilburgのレガシーを代表する2要素:①国の機関車製造の歴史と②市の経済を支える繊維業、そして二者をつなげるオランダのモダン建築とダッチデザイン(Civic Architecturebraaksma&roosInsideOutside)の掛け合わせとして叶ったコラボレーション。市民や観光客をどっしりとした構えで迎えてくれるだけでなく、コワーキングスペースや会議室を設け、クリエイティブ業界のオフィスビルとしても機能し、地域の昔と今を鮮やかに映しながら更なる変化を生み出している。

©Ossip Architectuur Fotografie

事前学習しなかったため、筆者自身ではこのディテールに気づかなかったのだが、一階の読書テーブルの脚には機関車を思わせる車輪が使われており、機関車移動用のレールがここで役目を果たしているそう。私が実体験から語れるTipsとしては、カフェが大変リーズナブルで、カフェラテ一杯€4するオランダの物価基準の中、ここでは同価格でケーキとドリンクが手に入る。こちらの建物も詳細が気になる方はHPなど覗いてみて欲しい。

週末でもあちこちに勉強する大学生が出没するのがオランダ

3. Wijkpaleis (Rotterdam)

電子機器のリペアカフェの様子、参加は予約不要かつ無料

<元学校、現コミュニティセンター>
日本では過去20年間で8,500以上もの学校が廃校となり活用問題が度々ニュースに上がっているが、廃校の素敵な活用事例はオランダでも見つかった。欧州都市計画修士仲間の友人が見つけてくれ、彼女のロッテルダム訪問中に共に訪れた思い出の場所がここWijkpaleis(Neighborhood Palace, 地域の宮殿)。

私たちが行った土曜は衣服や家具・電子機器のリペアカフェが開催される日。到着した瞬間から管理者の女性たちがお茶とコーヒーで暖かく迎え入れてくれ、この日は残念ながら衣服のリペアカフェを担当する女性たちが子どもの休暇で一斉に出かけているとのことで衣服の修理アドバイスを得られなかった代わりに、コミュニティセンターの歴史や制作物を丁寧に紹介しれくれた。

毎週数回コミュニティ食堂を開催

地域の活性化に関心を持った近隣に住む女性5人が集まり、2009年に住民が顔を合わせられる"井戸端"として緑地に簡易キオスクを開いたのをきっかけに長期的な持続できるコミュニティセンターを構想。古建物の再利用コンペなどに挑戦した先で巡り合った廃校をお金を借りながらローンで買取り、今はスモールビジネスを2階に入居させ、1階で食堂(激安)や無料のイベントを高頻度で開催し、彼女ならではのビジネスモデルを確立。

筆者の個人的な推しポイントは、たった5人の女性が仕掛けたコミュニティセンターが今では近隣の類似組織と手を取り合い、強力な地元ネットワークを築き上げたこと。Wijkpaleisの制作物にマップやイベントカレンダー、そしてHPがあるが、それらの完成度からも彼らのエネルギーがばんばんに伝わってくるはず。実際にロッテルダム南部に最近できたコミュニティセンターの管理者も「Wijkpaleisを目標にしている」と名指しするほど、界隈では有名な存在。

とにかく素敵なコミュニティセンターなので、彼女たちのストーリーをぜひここで自ら読んでみてほしい

外から見た入り口


名を挙げればキリがないオランダのリノベ事例

他にも有名な事例としては、船舶施設から一変しアムステルダム北部のヒッピーな再開発シーンをリードするNDSM(Amsterdam)、13世紀の教会から”世界一美しい書店”へ変貌を遂げたドミカネン書店(Maastricht)、2000年まで使われた古い刑務所を引き継いだ高級ホテルHet Arresthuis(Roermond)。そのほかにも各都市に複数既存する教会や倉庫、工場の多くが、本来とは異なる用途で人々に公開されている。筆者が知らない事例がまだまだたくさんあるはずなので、皆さんのおすすめがあればぜひ教えて欲しい。

また、自然災害がほとんどないことや、世界大戦を生き抜いた建築物が多く残存しているといった背景から、日本の建築物再活用と重ねにくいところがあるのも事実。それでも、このnoteが「建物そのままでここまで変わる」「新たな建物を増やすだけが建築だけではない」と誰かが気付いてくれるきっかけになれたら幸いである。


追記
海外で建築を学ぶ友人から、「木造建築は寿命があるから難しいけど、石の建物は日本でも何度も使われているイメージある」と築材の視点からコメントをもらい、大納得。調べてみるとオランダでは建物の再活用以外に、新しく建物を建てる際に

  • 接着剤をなるべく減らす

  • 廃材を使用する

  • 再利用できる築材を採用する

といった築材に関する工夫も増えているみたい。「建物は壊さない新築しない」が唯一の正解ではなく、新しく建てる場合にできるだけサーキュラーに近づけるアイデアや技術が発展していくんだろうな。

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