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コンパクトな街アムステルダムから考える都市とモビリティ|都市を学ぶ③

2050年には人口の7割近くが「都市部」に住むことになるというUNの2015年の記事を知ってからここ数ヶ月、都市におけるモビリティの特徴や役割についてより興味が湧き、頻繁に考えるようになった。この記事では、私が心地よいと感じるアムステルダムのモビリティを紹介しつつ、東京の未来の姿に想像を膨らませてみた。

都市と人口密度とモビリティ

社会学界隈に限らず、人口密度が増えれば公共交通機関の使用率が増え、人口密度が低いほど自動車が多く走るというのは誰もが理解いているだろう。
以下の資料を見ると北アメリカでは通勤における車の使用率が86.4%に対し、アジアの高収入地域ではたったの20.1%と4分の1以下。それに比べ公共交通機関の使用率はアジアの高収入地域が北アメリカの6.6倍、人口密度は10倍以上になっていることがわかる。

全学期に受けた授業のスライドより

確かに東京では毎日のように満員電車に揺られていたし、アムステルダム内で自動車通勤する人なんて圧倒的少数派だろう(小さな街なので移動は大体自転車か地下鉄)。

ところが「公共交通機関の発達した都市ほど自動車を使わなくなるのか?」というと、そうでもない気がしてくる。

実際に私が訪れたことのある都市を例にあげると、東京ではラッシュ時に当たり前に渋滞が起きてはニュースで情報が流れるし、北京の自動車の大行列は誰もが一度は目にしたことがあるだろう。ニューヨークではアイコニックなイエロータクシーや車間わずか10cmの路上駐車が名物だし、ロンドンでは車に何度も轢かれそうになった上に鼻水が灰色になるほど排気を吸い込み、パリは常時渋滞&街中に排気のにおいが充満し道路はどこも薄汚れている。

上記の都市はみな電車や地下鉄が大変便利な大都市で、自動車がなくとも十二分に生きていける街である。

それに比べてアムステルダムに住んでいつも思うことは、上の都市と比べると自動車が全然少ない。そしてその割には公共交通機関は便利ではあるが大都市には負ける。ちなみに人口密度はロンドンや千代田区と大差ない。(ロンドン:5,701人/㎢千代田区:5009人/㎢アムステルダム:4908人/㎢

ではなぜアムステルダムは自動車優位社会を防ぐことができたのか?
次の章では都市とモビリティの関係性から私なりにひも解いていきたいと思う。

アムステルダムのモビリティ変遷

実はこの自転車の街、他の大都市と同様に自動車がめちゃくちゃ流行った時期がある。1960~70年代だ。

アムステルダムの自転車使用率は1950年代に80%越えから減り始め、60年代に半数以下、そして70年代には約20%までに減少
アムステルダムの自転車使用率は1950年代に80%越えから減り始め、60年代に半数以下、そして70年代には約20%までに減少(引用元

第二次世界大戦後、世界全体が豊かになっていく中、オランダも例外でなく自動車を買える余裕のある家庭が増え、都市計画者たちは「車こそが未来のモビリティだ!」と信じ高速道路や駐車場を建てまくった。その変遷がこちら↓

中央駅すぐ西側のHaarlemmerdijkエリア。写真は左から1900、1971、2013年。
中央駅すぐ西側のHaarlemmerdijkエリア。写真は左から1900、1971、2013年。
昔の写真はAmsterdam Archivesより、現代の写真はThomas Schlijperが撮影(引用元

1960年代後半から1970年代にかけて自動車が街の王様になった時期、交通事故が至る所で発生し子どもがかなりの数犠牲になったこと、そして1974年の第四次中東戦争でイスラエルを支持したオランダがOAPEC(アラブ石油輸出国機構)から石油禁輸を喰らったことから、子育て世代や学生がさまざまなプロテストを行い自動車社会の発展を食い止めることができた。プロテストの内容はただ街中でデモを行うだけでなく、取り壊し予定の建物を占領したり勝手に自転車レーンを地面に描くなどかなり本格的かつ徹底的に反抗していたそう。(何を隠そう、アムステルダマーは何かあるとすぐ街に出て声をあげるのだ。プロテスト文化についてはまた改めて記事に残そうと思う)

ちなみに2022年現在の景色も2013年の状況とほぼ変わらず、特に車通りが多くないエリアでは自転車が自動車道を占領し、道端には数えきれないほどの自転車が停められている。現在のアムステルダムでは移動の40%、つまり半数近くが自転車で行われているらしく、人口密度が同レベルであるロンドンの2%と比べるとなかなかの数だと想像できよう。

公共交通機関に触れておくと、地下鉄や電車は主に南北に走っており、その間を埋めたり東西をつなげるのはバスとトラム(ケーブルのついた路面電車)の役割である。中心地から少し外れるとトラムは見られなくなり、バス・地下鉄・電車の駅間隔は心なしか広くなる。中心地から遠くなればなるほ人口密度は減っていくので、ここに来てようやく冒頭で述べた「人口密度と公共交通機関使用率の反比例」が当てはまると言える。しかしどこで交通機関に乗ろうとも、空席0・乗車率100%越えみたいな状況はまず見ない。立っている人がいたところでそれは相席が嫌で立っているだけで、東京やパリのように車両が人でぱんぱんになることはない。

自転車優位な街に導いた都市計画

そして上記の歴史的な動きだけでなく、街の地形もモビリティに大いに関係しているのは言うまでもない。

この環状運河の内側は2010年から世界文化遺産にもなっているそう。私世界遺産で勉強してるの?知らなかった〜!(引用元
アムステルダム中心地の地図
地図は中心地(濃いオレンジが世界遺産にもなっているSingelgracht川の内側)のみで、実際のアムステルダムは半径+3~4kmくらい(引用元

このマップを見てわかる通り、大きな川が2本(Het IJとAmstel)ある以外に、運河が蜘蛛の巣のように街中を幾重にも囲っている。運河と運河の間(地図のオレンジ色の部分)はもちろん建物で埋め尽くされており、狭い道路は基本的に自動車の運転には向いていない。

16世紀以降、面積は小さくも経済的に大きく栄えた貿易港として、そして都市の急成長による人口増加に対応するための住宅形成の目的から、運河が次々と広げられた。そしてこんなにも多くの運河が存在できるのは平均海抜-2mの超フラットな地盤のおかげでもある。そのうちどうやら17世紀後半の経済減速によって運河建設がストップし、美しくかつ程よくコンパクトな中心地が出来上がったというわけだ。

このように、狭く平坦な道路と中心地外部まで入れても半径1桁のスケールが自転車に最適だったのだ。

東京のモビリティを考えてみる

さて、東京は文字通り大都市である。アムステルダム全体の面積219.3㎢と比べると、2,188.7㎢もある東京はアムステルダム約10個分。
土地は平坦ではなく都内にも小さな山や丘がたくさんあり、繁華街でも坂が多く見られる。
住宅地に入れば道路は狭いものの、基本的には広い車道と隣に狭い歩道、その間に自転車道がたまにあるくらい。
交通事故はもちろんあり、コロナ禍で外出が控えられていた2021年には都内で155人が交通事故で亡くなっている。アムステルダムで自動車反対運動が起こった1970年ごろのオランダの人口は現在の東京とほぼ同じ約1300万人で、そのうち交通事故死亡者数は年間約3,500人なので、それと比べると東京の交通事故死亡者数はプロテストを招くほどでもない…?

こう比べてみると脱自動車中心社会を果たしたアムステルダムとの共通点がまるで皆無すぎる。

別に車中心社会が絶対悪で改善すべきだとは言わないし、東京は東京でそのモビリティの特徴がある。例えば線数が多いにも関わらず時間通りに走る交通機関はとても頼りになるので大好きだ。

ただ、自動車が減ると事故はより減るし環境にも優しいのは間違いない。それに車道の代わりに歩道や自転車道が整備されてより広くなれば万々歳。駐車場が減って公園や緑地なんかが増えるともっと素敵。

このように、自動車の少ない未来の方がなんだか住みやすい気がするのだ。

また、冒頭でも述べた通り2050年には人口の7割ほどが都市部に住むことになる。東京やそのほか都市、そして新たに誕生するであろう都市の街づくり(都市計画)を未来を見据えて考えると、車だらけの景色をここかしこにみるよりは、もう少しコンパクトでカーレスな方が住み心地が圧倒的に良いはず。

実際、スマートシティと呼ばれる未来型の都市構想ではモビリティは「シェア」が主な選択肢の一つとなり、東京、そして日本でも街を走る自動車が少なくなっていくことが予想される。住宅と娯楽、職場や学校が近いこともスマートシティの特徴の一つだ。

都市部の人口が増え、車が少なく、移動距離が減る少し先の未来に向けた、文字通り自治体ごとのローカルな都市計画が楽しみだなと感じた次第。


参考文献:

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