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檻の中からこんにちは

先週から閉鎖病棟に入院しています。この文章は鍵付きで外から完全に閉ざされた病棟内からお送りしています。どうしてこうなってしまったか、順を追ってお話していきましょう。

急に何もかも無駄だと思うようになった。厭世主義の極みみたいな感じで、はいこれも無駄、あれも無駄、それも無駄、無駄無駄無駄ァになってしまった。マッチングアプリを日夜必死にスワイプして色んな人に会っているのも、薄給で働いているのも、叶うかわからない夢を追っているのも、「なんか全部無駄じゃないすか?」と脳内ひろゆきがニヒルな笑みを浮かべて私に言ってくるようになった。「だ、だよね〜もうどうでもいいよねえ!」と思った私はチャリで家から1番近いドラッグストアまで行って、今まで幾度となくODしてきた市販薬を買って、計124錠をザラザラザラと胃の中に流し込んだ。

ODしてる間も虚無虚無プリンなのは変わりなくて、私は「なんかもう全部疲れちゃったよドラえもん〜」と思いながらどんどん頭がぼんやりまったりしていくのを感じていた。ぼんやりしていくにつれて私の人生どうでも飯田橋な気分はより一層加速していって、「そうだ、腕でも切っちゃお〜💫」という大層軽いノリでカッターを取り出し腕をザクザク切り刻み始めた。「仕事も休んで何やってるんだろう……」と25歳社会人らしい考えが脳裏をちゃんとよぎったけど、「いやもう全部どうでもいい、早く死ねばいい」という思いですぐにいっぱいになってかき消された。

その日はろくに人とも話せなくて、晩御飯も喉を通らなかった。「2日連続はきついわ〜」とまるで連チャンの飲み会を遠慮するかのように、次の日はODするのを控えた。でもその1日後、私はまたチャリを漕いでドラッグストアで市販薬を買い込んだ。

30錠ぐらい飲んだんだろうか。床もベッドも踊っていた。ぐにゃぐにゃ曲がり続けているのがわかる。私も一緒に曲がっていく。「あ〜もう全部ふにゃふにゃですわな」と訳のわからないことを思いながら、ふにゃふにゃな頭と体でその日も腕を切った。シラフで切るとリストカットって普通に痛いのだけれど、薬を大量に飲んでると全然痛みを感じないのだ。血が次々と溢れ出して腕を伝っていくのを見て、「生きてるんだ〜」と生を実感する。ODとリスカは死に急ぐような行為なのに、かえって生きてることへの実感が湧くなんてなんだか滑稽だ。

私は素直な人間なので、ODしましたと周囲の人間にポロッとこぼした。いや素直というか、「このまま壊れてしまえ」と思ってるようでいて、内心「早く私を助けて」と思っていたんだろう。あれよあれよと話が進み、入院することになった。

入院する前日、1人じゃ家に置いとけないということで実家に帰ることになった。実家に帰るまでの道中、母親が車で家まで送ってくれたが連日ODしまくった私は完全にイカれてしまっていた。まるで車がスペースマウンテン(乗ったことないけど)のようなのだ。爛々と光り輝く街灯は光りすぎてこぼれ落ちてきそうだったし、私はギュインギュイン回転する止まらない脳みそと肉体が分離してしまいそうで怖かった。「情報が迫ってくる!!これ以上処理しきれない!」そう思って目をつぶったりした。最早1人で歩くことができなかった私は、母親の介助を借りながら何とか家まで辿り着いた。
私の家はマンションの高層階に位置するのだけれど、あのときは家がある位置を高いと感じなかった。地面がとても近く思えるのだ。体もすごくふわふわしていて、どこまでも飛んでいけるように思えた。「あ、やばい。このままだったら飛び降りてしまう。」そう思った私は咄嗟に家にあったガムテープで足をグルグル巻きにして寝た。そうしたら万が一飛び降りようとしても、「なんか足だるいなあ。」で飛び降りるのを回避できるんじゃないかと思ったからだ。イカれた頭で夜中にガムテープで自分の足をグルグル巻いている姿は完全に恐怖映像だよなと自分を俯瞰して思った。眠るのが怖かった。夢うつつな状態で、飛び降りてしまったらどうしようという恐怖心しか無かった。

そんなこんなを経て私は入院することになった。入院して今日でちょうど1週間目だ。ご飯も美味しいし、本も映画もたくさん読めるし観れるし、そして何より携帯の使用許可がおりているしで、私は思ったより窮屈な思いをせずに入院生活を送れている。同じ病棟の患者さんにも「笑顔が出てきたね」と言われて、「あれ、私元気になってきたのかも」なんて思っていた。

2日前、私はなかなか寝付けなくて、でももう少し頑張ったら眠れそうで、夢と現実の境界を行ったり来たりしていた。眠れなかったら頓服の薬を貰えるのだけれど、「ああこんなんじゃ寝れないわ、薬貰おう。」と決意した私は中途半端な睡魔から四つん這いになって地べたを這いずり回るようにしてナースステーションまで向かった。やっとの思いでナースステーションに辿り着いて、「あの、眠れないので頓服貰えますか」と看護師さんに伝えるといつも物腰の柔らかい男性看護師さんがいつも通りの優しい声で「眠れないの?死んだら眠れるよ」と私に言った。「え〜まじかよそんなこと言っちゃう?」と思いつつ、何かおかしいと思ってハッとするとそこは自分の部屋、私は浅い睡眠の中悪夢を見ていただけだった。現実の世界で私は再びナースステーションに行き「眠れないので……」と言うと件の男性看護師さんは私に頓服を差し出してくれた。「眠れなかったら死ねって言われたんですよね。」と言うと優しい看護師さんは「誰がそんなこと言うの?」と私に聞いたので、「あなたですよ」とは流石に言えずに「……幻聴です」と返した。私も優しい患者さんですね。

この調子だと当分入院することになりそうだ。ああ、病める心のない健康な体に生まれたかった!

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