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仕事をやめてもしぬわけじゃない

「成長したい」とか「違う分野に挑戦したい」とか、そんな前向きな理由じゃなくて、ただつらくて仕事を辞めてしまった話なのだけど、思い出して書いていこうと思います。



10年前の4月、わたしは新卒で食品メーカーに就職した。
事務所と工場の社員を合わせて50人ほどのちいさな会社だった。
地元では名の知れた会社で、わたしがここに就職を決めたことは親も親戚も喜んでくれていた。
でも実は、ここが「ずっといきたかった会社」な訳ではなかった。

お恥ずかしいことに、わたしは明らかに就活に失敗した。
やりたいことや興味のある分野などはなく、職種も絞らず、軸もないままに手当たり次第に履歴書を書いては送っていた。
大学3年生の冬が終わり4年生の春が来て、夏が来る頃には周りはもうとっくに就職先を決めていた。
わたしは汗だくになりながら就活を続けていた。

もう秋になろうかという頃、就活に疲れてヨレヨレになっていたわたしを拾ってくれたのが、この小さな会社だった。

通勤圏内の企業のホームページをパトロールしていたところ、社員を募集しているのを見つけたのだ。
藁にもすがる思いで履歴書を送り、トントン拍子に話が進み、内定をいただいた。



ああ・・・やっと終わった・・・



と思ったけど、全然終わってなかった。



入社してから違和感を感じるまでに、そんなに時間はかからなかった。

詳しくは書かないけれど、古い体質の会社だったと思う。

何より、仕事がなかった。

朝出勤してパソコンのメールをチェックしたらもうそこからやることはない。
隣に座っている先輩に「何かお手伝いできることはないですか」と聞く。
「ないで」と言われる。
後ろに座っている先輩に同じことを聞く。
「ないで」と言われる。
さらにその後ろに座っている先輩にも同じことを聞く。
「ないで」と言われる。

最終的には部長にも聞きに行った。

しかし、わたしにできることはないようだった。

なんで仕事がない?
なんで雇った?
なんで?

毎日考えたけどわからなかった。

周りの人に「やることがなくてしんどいねん」と相談すると、「暇やのにお給料もらえるなんて最高やん」とか「忙しいほうが大変やで」とか言われるけど、暇は最高じゃないし大変だ。

時間が過ぎるのを待つだけの生活。
時計を見ても1分しか進んでいない。
引き出しを無駄に開閉したり、筆記用具を整えたり、用もないのにwordを開いたりする。たま〜〜〜に来るメールにめちゃくちゃ丁寧に返信する。ちょっとだけ長くトイレに滞在する。
それでも30分にもならない。

友達はそれぞれの就職先で、窓口でお客様の対応をしたり、営業でお客様を獲得したりと頑張っているのに、わたしは何も頑張っていないし1ミリも成長していない。

焦りとか悔しさとかを通り越して、頭がおかしくなりそうだった。


社会人10年目の今なら、開き直って全く違う勉強をしたり、ネットサーフィンしたり、本を読んだりできるかもしれないけど、当時はそんな度胸もなかった。

こんなに追い詰められていたのに、「新卒で就職した会社を1年で辞めるなんてありえない」「会社の皆さんに申し訳ない」と心の底から思っていた。

それに、せっかく苦労してやっと入れた会社を辞めるなんてもったいないという気持ちもあった。

本当にどうかしていた。


だけどすぐにそんなことも言ってられなくなった。

メンタルがおかしくなりはじめたからだ。

会社ではなんとか堪えていたけど、行き道も帰り道も涙が止まらない。
帰ってからご飯を食べずに泣きながら眠る日もあった。


その頃からやっと思い腰を上げ、仕事が休みの日に転職エージェントと面談をしたり(今では電話やZOOMが主流だと思うけど、当時は事務所まで行っていた。)、紹介してもらった求人に申し込んだり、面接を受けたり。

だけど、なかなか上手くいかず、「わたしは社会に必要とされていないんだな」と感傷的になったり、就活のときのつらさを思い出したりしていた。

苦しかったけど、どこかに採用してもらうことが決まったら、さっさと今の仕事を辞めよう。
そう思って踏ん張っていた。

でもある日、突然限界を迎えた。
就業中に涙が止まらなくなったのだ。

すぐに退職を申し出た。


転職先が決まらないまま、わたしは新卒1年目で無職になってしまった。



何回もしつこいけど、働いているときは、新卒1年目で辞めるなんてありえないし、申し訳ないし、もったいないと思っていた。


だけど、実際に退職すると、不思議とネガティブなきもちにはならなかった。


それは、支えてくれた家族や、話を聞いてくれた友達のおかげでもあるし、このまま仕事を続けていたほうが自分にとって良くなかったと確信できたからかもしれない。

仕事を辞めてから心身ともに健康になった。

毎朝起きるのが憂鬱じゃなくなったし夜はぐっすり眠れるようになった。

涙は出なくなったし、心が穏やかになって家族と揉めることもなくなった。

意外とお金のことも気にならない。(これは実家に住んでいたからだと思う。)

気持ちも明るくなって、教習所に通う元気もあった。



その後、なんと運よく市役所の追加募集で拾ってもらうことができた。

これは本当に運が良かったとしか言えない。

たまたま母が求人を見つけて、たまたま書類選考に受かって、たまたま面接試験に通って。

こうして市役所に入庁し、今年で9年目になった。

人にも環境にも恵まれて長く勤めてこられたけど、でも元を辿れば、あの会社に入社して退職したからこそ巡り会えた職場であって。

そう考えると全部がつながっていて、運命だったのかもしれない。(結果論だし、つらいことなんてないに越したことはないけど。)



実はこの春、わたしは市役所を退職する。

公務員はまだまだ「定年まで勤め上げるのが普通」だと思っている人が多いし、実際にそういう人がほとんどだ。

公務員に限らず、はじめるのは大変だけど、やめるのはもっと大変なのだ。

そのなかで退職という選択をするのは難しいし勇気がいるけれど、エイヤ!と踏み出せたのはきっと最初の転職経験があるからだと思う。

やむを得ず退職して無職になってしまったけれど、それで良かったんだ。



仕事をやめたってしぬわけじゃない。

この職場がこの世の全てじゃない。

もっと広い世界がある。

それを身をもって知ることができた転職経験が、わたしを成長させてくれたと思う。


#転職体験記

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