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【長編小説】#10「私の生まれ変わりは、君がいい。」

《待ち合わせ①》

 一週間後。私達は会うことになった。

 連絡先を交換した後日、わりとすぐに彼女の方から電話がかかってきた。「いつなら空いてる!?」と、結構前のめりな様子で。
 私はまだ自分の病気のことで気分が落ちていたし、もう少し落ち着いてから会いたかったけど、彼女が「じゃあこの日はどう?」とどんどん聞いてくるもんだから、いつの間にか彼女のペースに流されてしまい、気づいたらあれよあれよという間に日付が決まっていた。

 その約束の日が今日。お互いに学校が終わったら、ここで待ち合わせにしようと、彼女がとあるカフェのURLをトークアプリに送ってきた。
 待ち合わせ時間の五分前。私は指定されたカフェの前に着いた。学校からそう遠くはない距離にあり、少し大通りから外れた小道にある、隠れ家的なカフェだった。こじんまりとした丸太小屋で、さほど活気はなかったが、温かい雰囲気のカフェだった。
 入口付近にはたくさんの色鮮やかな花が咲いており、出迎えてくれる。手入れが行き届いているのが一目でわかった。ひとつひとつの花が真っ直ぐに、上を向いて咲いている。たくさんの水を吸収して、たくさんの太陽の光を浴びて、自分は元気だと、全身で言っている。丁寧に、大切に育てられているんだなと、見てわかった。花の育て方は人を現すと、私は思っている。きっと、このカフェのオーナーは、とても優しい人なのだろうと思った。
 可愛らしい丸太小屋のカフェは緑に囲まれており、その空間は、まるでおとぎの国そのものだった。自分が、絵本の世界に迷い込んでしまった主人公の気さえした。彼女が私を導いたのは、そんなカフェだった。

 ゆっくりとドアを開けると、カランカランと入口のベルが鳴る。中に入ると、ほろ苦いコーヒーの香りがした。
 店内をぐるりと見回してみるものの、彼女どころか人っ子一人いない。

 来る場所を間違えただろうか。

 そんな心配が一瞬頭をよぎったが、そんな感情を瞬時に消してしまうほどの感動に、私の心は奪われた。店内に見惚れてしまったのだ。
 今、私の目の前に広がる世界は、まるで童話の中のようであった。例えるなら、ヨーロッパの街並みの中に存在するような、オシャレで可愛らしい家。女の子が好むような、メルヘンチックな店内に、私の好奇心は一気にくすぐられ、夢中になって店内を見渡した。かわいい。そう思わずにはいられなかった。
 丸太小屋なだけあって、テーブルや椅子は木で作られている。テーブルクロスは赤と白のチェック模様で、それぞれのテーブルの中央に花瓶が飾られてある。個性を持った愛らしい花たちが、華やかにテーブルを彩る。壁にはいくつかの風景画が飾られていた。美術に疎い私は、誰が描いた絵なのかは分からなかったが、観ていて心がとても温かくなる絵だった。
 本当に、絵本の世界に来てしまったのではないだろうかと疑ってしまうほど、ここは非現実的で、乙女心をくすぐる愛らしい空間だった。

「いらっしゃいませ。」

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