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【長編小説】#9「私の生まれ変わりは、君がいい。」

《新村優葵②》

「お姉さん、名前教えてくれますか?」

 まあ、名前くらいなら…。常連さんだし。

「…風原灯莉です…。」

「なるほど。あかりさんの『莉』がジャスミンなんですね。素敵です。」

 言われて嬉しくなってしまった自分に照れる。

「灯莉さん、おいくつですか?」

「今年十八になります…。」

 彼女がギョッとした顔をした。あからさまに驚いている。

「うっそ!私とタメなの!?」

 その言葉に私もギョッとする。
 え、タメなの!?
 いや、確かに制服着てるから高校生とは分かってたけど、小柄だし愛くるしい感じだから、一年生かと思った…。礼儀正しいな、とは思ったけど。

「まじかー。うわあ、そっか~。」

 先ほどの大人びた言葉づかいから一変、急に女子高生らしい言葉づかいになった。こう見ると、本当に普通の女子高生だな…。一気に親近感を覚えた。

「灯莉ちゃん、今度一緒に私と出かけてくれない?」

「え!?」

 またもや想定外の言葉に、困惑する。驚きを隠せない。

「出かける!?私と?」

「うん。どこかカフェに行こうよ。私奢る!それで貸し借りナシ。どう?」

 えぇ…。どう?って言われても…。これ、私断れないんじゃない?
 まあ、いい子だし、同い年で親近感湧いちゃったし、特に断る理由もないか…?

「…わかりました。」

「敬語じゃなくていいよ。タメなんだし!」

「今は…店員とお客様なので…。」

 笑われるかと思ったけど、彼女は「そっか。」と微笑んだ。そして、

「じゃあ、次会うときは敬語じゃないね。」

 と、嬉しそうに言った。

 そして、私たちは連絡先を交換した。トークアプリに表示された彼女の名前は…

 ―新村優葵。

「えっと、お名前読み方は…ゆうきちゃんですか?」

「あ、そうそう。ごめんね。私、名前言うの忘れてた。新村優葵です。よろしくね。」

 『優しい』に『葵』で『ゆうき』…。

「二人とも花の名前があるね。」

 彼女は笑顔でそう言って、「それじゃあ、また。」と花たちを右手に抱えて帰って行った。

 優葵。
 葵の花言葉には、高貴、温和、優しさなどがある。
 葵の花は、太陽に向かって凛と咲く。その姿は、真っ直ぐで、誠実で、芯があって、品があって、まさに『美しさ』そのもの。

 『優葵』という名前は、まさに彼女そのものだった―。

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