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【長編小説】#14「私の生まれ変わりは、君がいい。」
《二人の関係》
「惚れた?」
「え?」
唐突な彼女の質問に、動揺するように変な声が出た。
彼女はくすっと笑って、
「ハヤトくん。好きになっちゃった?」
と聞き直した。
「え、いや、えっと…。」
あからさまに困惑した私の様子を見て、
「うそうそ、ごめん。」
と、彼女は冗談っぽく笑った。
「あ、でもさ、ハヤトくんってかっこいいの?灯莉ちゃんからみてどう思う?」
興味深々、という感じで、前のめりになって彼女が聞く。
そうか。彼女は彼の“見た目”を知らないんだ。
しばらく沈黙が流れて、
「…かっこいい…と思う…。」
「へぇ〜、そうなんだ!どんな風に?」
「…すらっとしてて、黒髪が似合ってて、爽やか系?っていうのかな…。それから…。」
「それから?」
「笑った顔が素敵。」
「そっか。」
彼女が優しく微笑む。
「そっかそっか。ハヤトくんイケメンなんだぁ〜。中身もイケメンだしね。」
ふふっと彼女が笑う。
「うん、確かに。中身もイケメン。」
私もつられて微笑む。
さっきの会話から、態度から、仕草から、会って間もない私でもわかる。彼は、人の心に寄り添える、思いやりに溢れた、優しい人なのだと。
まるで、誠実な愛や優しさ、思いやりを花言葉にもつ、ピンクのチューリップのように。
「…灯莉ちゃん。」
優しい微笑みがだんだんと消え、少し迷ったような、困ったような表情を浮かべてから、彼女は意を決したように、真剣な眼差しを私に向け、静かに言葉を発した。
「ハヤトくんは…やめといた方がいいよ。」
「え…?」
「…ハヤトくんさ…彼女、いるんだよ。」
彼女は申し訳なさそうに、でもまっすぐに私を見据える。
「だから、なんていうか、こんなこと私が言う権利はないのわかってるんだけど…。」
「待って待って!ストップ!」
慌てて彼女の言葉を遮る。
驚く彼女の顔を見つめながら、
「…私、彼のこと好きになってないよ?」
彼女が思いがけない言葉を聞いたように、一瞬静止する。そして直後、言葉の意味を理解したように、表情が大きく変わった。
「え…。え…!?そうなの!?」
あからさまに驚いている。
「うん。そうなの。だから、心配するようなことは何もないから。」
「私、てっきり…。だって、ハヤトくんのことかっこいいとか、イケメンとか、笑顔が素敵って言ってたから…。」
違うの?という風に彼女が顔で聞く。
確かに、これだけの言葉が列挙すると、好きだと言っている風にしか聞こえない。
我ながら、自分の発言に驚く。
「正直、かっこいいと思うし、性格もイケメンだと思う。笑顔にときめいたのも本当。」
「ときめいてんじゃんか!!」
「あの笑顔は全人類がときめくの!しょうがないのよ!ときめき不可避!!」
「えー!そうなの?ハヤトくんすごぉー。」
「どこに感心してんのよ。そうじゃなくて。私が言いたいのは、なんていうか、憧れの芸能人みてるみたいな、そんな感覚なのよ。恋とかではない。そもそも、一目惚れとかするほど私簡単に恋に落ちないし。もちろん人として魅力的だとは思うけど…。」
ふと彼女の方を見ると、私を見てにやにやしていた。
なんだか楽しそうに笑っている。
「何よ…?」
「灯莉ちゃん、強がってる…?」
「強がってない!」
「ふーん、かわいいところあるんだね。」
彼女が満足そうに笑う。この子、人の話聞いてない…。
もともと勝負をしていたわけではないのに、この謎の敗北感は一体なんなんだろう…。
「っていうか、彼に恋人がいるとわかった今、それが全てじゃない?もし私が好きになってたとしても、恋人がいる人を奪うなんてマネしないよ。それに、忠告するほど、勝ち目はないってことでしょ?」
「当たり!さすが風原くん。わかってますなぁ〜。」
彼女が人差し指と親指を顎に添え、うんうんと納得するように頷く。
「あの、それ何キャラですか…?」
呆れ顔でツッコミみつつも、内心こんなやり取りができていることが楽しかった。
お茶目な彼女がどんどん顔をだし、新村優葵という人物がどんな子なのか、だんだんわかってきたのが嬉しかった。
彼女もふふっと笑い、このやりとりを楽しんでいるようだった。
すると、急にずいっと彼女が身を乗り出した。
「どんな人か気になる?ハヤトくんの彼女。」
いたずらっ子のように、彼女は笑った。
答えは決まっている。
「もちろん。」
私は真剣な眼差しで身を乗り出した。
あんなに誠実な人の彼女は一体どんな人なのか、気にならないわけがない。
自然と二人の顔が近づく。私は興味津々で聞き耳をたてた。
「彼女の名前は、碧木彩絵花(あおきさえか)ちゃん。ハヤトくんの同級生で、幼馴染みだよ。」
「幼馴染み!?」
「そう。しかも美人さん。ハヤトくんのお母さんが言うにはね。私は実際に見たことはないけど、会ったことはあるから。絶対美人さんだと思う。間違いない。」
彼女が嬉しそうに笑う。
同級生の幼馴染み同士で、美男美女カップル。こんなに絵に描いたような恋物語があるだろうか。
「小さい頃から、仲が良かったみたい。私もいつも一緒にいるの見てたから。なのに全然付き合わなくて。いつになったらくっつくのかなぁ〜、って思ってたんだよ。」
彼女が笑った。
「だって、お互い惹かれあってるのバレバレだし。」
「バレバレなんだ?」
「そう。バレバレなの。傍から見たらね。当人たちは自分の気持ちにさえ気づいてない感じだったけど。」
二人して笑った。
私はドキドキしながら彼女の話を聞いていた。誰かの恋バナほど楽しいものはないが、こんなに胸の高鳴りを抑えられないのは久々だった。
幼馴染みで同級生の美男美女。小さい頃から仲が良く、いつも一緒にいた。お互い惹かれあっているのは傍から見てバレバレなのに、当人たちは自分の気持ちにさえ気づいていない。
こんなにもきゅんとする話があるだろうか。まるで少女漫画だ。
「それで、やっと付き合ったのが、2人が高校3年生のとき。今年で付き合って6年目かな?」
「6年目!?」
「そう。長いよね。」
彼女がすごいでしょ、と微笑む。
「でも、お互いに、お互いを想い合ってるって感じなの。ほんとに、強い絆みないなものが、私にはみえる。」
彼女が力強く言った。
「そっか。素敵だね。」
「そう。本当に素敵な二人だよ。」
彼女は、自分のことのように、誇らしげに微笑んだ。
二人のことが大好きなのだと、強く伝わってきた。
彼女の話を聞いていて、ふと心に抱いていた疑問を思い出した。
彼の恋愛事情をここまで知っている。そして、彼の優葵ちゃんに対する深い感情の表れ。
やっぱり、聞かずにはいられなかった。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、優葵ちゃんとハヤトさん、どういう関係なの?」
「私とハヤトくん?」
「いや、ここまで色々知ってるわけだし、ただのお客さんと店員さんの仲って感じじゃなかったから…。」
私の言葉を聞いて、彼女はそういうことね、という風に微笑んだ。
「私とハヤトくんは親戚。」
「え?」
「ハヤトくんは、私のいとこだよ。」
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