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【長編小説】#7「私の生まれ変わりは、君がいい。」

《希望③》

「あの、大丈夫ですか。どうかしたんですか。」

 彼女が慌てる。必要以上に、心配そうに私を見ている。
 それはそうか。視えない彼女にとって、目の前の人が突然泣き始めたら、困惑するのは当然のことだ。いや、視えていても困惑するだろう。だからこそ、必要以上に怖いのだ。何があったのかわからないから。気づけないから。どうしたらいいのかわからないから。

「大丈夫です。すみません。お見苦しいところを…。」

「いえ、私は全然…。その、どこか痛いとか、苦しいとかではないんですか?」

 彼女が心配そうに私を見つめる。本当に、心配している。

「はい。全然、そういうのではないので。本当に大丈夫です。すみません。ご心配をおかけして。」

 その言葉を聞いて、彼女は少し安堵したようだった。視えない彼女にとって、信じられるのはその人の言葉と態度なのだろう。少し不安は残るが、私のはっきりとした口調と言葉で、少なくとも異常事態ではないと、信じたのかもしれない。

「それなら、良かったです。」

 彼女はホッとしたように微笑んだ。
 この子は、どこまで優しい子なのだろう…。
 そう、思わずにはいられなかった。そして同時に、自分のことしか考えられない自分を恥じた。

「あの、ハゴロモジャスミンという花もありますか?」

 彼女がそわそわしながら聞いた。

「え?あ、はい…。ありますけど…。」

 瞬間、彼女の顔がぱあっと輝いた。

「もし良かったら、持って来てもらえませんか?」

 生き生きとした声で彼女が言う。わくわくを止められない、というような感じだ。その愛らしい彼女の姿を見て、私は思わず笑みをこぼした。

「もちろんです。すぐにお持ちします。」

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