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【長編小説】#3「私の生まれ変わりは、君がいい。」

《五年前①》

 ―五年前。高校三年生になったばかりの頃。私は、医者からある病気を告げられた。

「―若盲症(じゃくもうしょう)ですね。」

 じゃくもうしょう…?
 私は今まで聞いたこともない言葉に、困惑の表情を浮かべる。ただ、それが良くないことなんだろう、ということは、本能的に分かった。

「先生、それは一体何なんですか…?」

 母が不安げに問いかける。

「若盲症とは、近年若者にみられるようになった、目の病気のことです。」

 病気。その言葉で一瞬にして身体の体温を奪われた。魂が抜けたように全身に寒気が走った。心臓の鼓動がドクドクと早くなる。そんな風に、忙しない自分の身体とは裏腹に、私は落ち着いて「大丈夫」と自分に言い聞かせた。きっと大丈夫だろう。病気は病気でも、きっと軽い病気なんだろう。そう、思う他なかった。黒い何かが、私を襲おうとしているのがわかったから。私はうるさく鳴る心臓を沈ませるように、自分に大丈夫だと、何度も言い聞かせた。

 緊張が体中を駆け巡る。

 固唾を呑み、二人して先生の次の言葉を待った。けれど…。先生は次の言葉を発さなかった。ただ、私の検査結果を見つめながら、顔を歪めて黙り込んでいる。その様子に、私は嫌な予感がした。まるで、次に発する言葉を選んでいるようで…。

「先生…?」

 母が先生の顔を不安げに覗き込む。

「娘は…、灯莉は大丈夫なんですよね?治る病気なんですよね…?」

 母が、早く安心したいと言わんばかりに、先生の答えを促した。すると先生は、何とも言えないような、強いて言うなら申し訳ないとでも言うような表情を見せて、俯いた。
「え…。」と、母は呟いた。

 その二人の反応が、答えだった―。

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