見出し画像

日曜日、昼の音

日曜の昼、電車に乗った。昨日の地上に迫ってくるような曇天は姿を消し、雲が夏の空に向けて形を変え始めている。都内に向かうこの路線は朝を過ぎても人気がそれなりにあって、備え付けられた席はほとんど埋まっていた。

電車が発進すると、色々な音が聞こえる。
車両を動かすモーターの音、車両同士が揺れ動く音、線路の上を車輪が滑る音、風を切って進む音。
そこに加えて、家族で出かける子供のはしゃいだ声、ベビーカーに乗せられた赤ん坊の鳴き声、そしてなぜかネット上の動画の音声を切らずに流れてくる音。

お揃いの服を着た可愛らしい兄弟二人は両親に導かれながら、たまたまあった空席にピタリと収まった。弟の方は、隣に座っていた外国人と思わしき男性と目が合うと小さく会釈した。その姿に、男性も合わせてぺこりと男の子に頭を下げた。なんとも和やかな風景だった。

ベビーカーで泣いていた赤ん坊は、押し手であった父親らしき男性に抱き上げられると泣くのをやめて嬉しそうな声を上げていた。タイミングが良かったのだろう、こうやっても泣き止まない赤ん坊だって電車ではよく見る。ラッキーでしたね、お父さん。

そして、鳴り止まない動画の音声。隣に座っていた女性がわざわざ席を移動したときは、もしかしてどこか身体をぶつけてしまっただろうか、狭かっただろうかと思ったものの、少しあとにその理由がわかった。

女性が居なくなって一つ席を空けた向こう側からカシャンカシャンと音がする。そろりとそちらに目をやると、男性が空いた座面に手を付きながらスマートフォンの画面を横にして眺めていた。そこには、三毛猫が金属のお皿を両手で器用に叩いている動画が映っていた。

なるほど、あの音か。公共交通機関でそこそこの音量を流している姿にとくに腹を立てることも無く、ぼんやりと眺めていると、男性は画面を隣に少しだけ傾けた。どうやらさらに向こう側にもう一人座っていた男性とは連れ同士で、一緒に猫の動画を見ていたらしい。

え、かわいい。電車でやらなくても良いだろうけど、大きな身体を少し寄せ合って小さな画面を一緒に見ている姿が、何だか大きくなった小学生に見えた。小学生も、よく一つの小さなものに数人で群がっている印象がある。

微笑ましい気持ちになったが、他人様をあまりじろじろみるのも宜しくない。再び正面に目を向けると満席状態のシートに腰掛けた乗客の足元が、すべてスニーカーで揃っていた。

思いがけないゾロ目に、何だか気分が良くなった。

日曜日の昼、イヤホンもせず、スマートフォンも見ずにぼんやりと電車に乗るのも、悪くない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?