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【1日目】

朝。特に変わりはない。鳥の声が遠くに聞こえる。少しずつ春が来ているのがわかる。いつのまにか部屋着も薄くなり、布団の数も減っている。
気づかない間に、時間は進んでいく。緊急事態宣言後の朝でもなにも変わっていないようで、僕は燃えないゴミを捨てる。いつものように外には出社するために歩いている人がいた。
テレビを見れば特に昨日と変わらず間隔をあけて立って話している。カーテンを開けて窓を開ける。部屋が明るくなってゆかりさんが苦しそうに呻く。大丈夫?の声をかけると、ぬーぬーと答える。返事ではない。窓を開けると寒い空気が部屋の中に入り込む。空気が入れ替わるようなそんな気がする。
ゆかりさんも起き出す。のそのそと着替え始めるので今から出かけるの?と聞くと違うよーとの返事。部屋着のままだと気分が滅入るかららしい。
僕は着替えせず、朝の準備だけしてパソコンの電源を入れる。いつもの出社時間にはパソコンの前で情報の把握をしたり自分の今の気持ちを文章にしたりする。本当なら出社して忙しい時だからなにをして良いのかわからなくなる。
隣の部屋にいるゆかりさんの低い声が聞こえたので、なんだろうと戸を開けるとアラビア語の練習をしていた。なぜアラビア語なのだろう。わからない。
戸を挟んで自由に過ごしている。とくに二人でいるからと、何か生産的なことをしなくても良いという肩の力が抜けた関係性は、僕の中の家族なのかもしれない。
家族ってなんだとか、家にいることはなんだと思い、零貸店アカミミ「ZINEアカミミ 特集:家族」を読む。雑誌のような大きさがあるので家でしか読めないZINEで、文学フリマで買って読もう読もうと思っていたけれど、大きさでためらっていた。読んでみると面白かった。特集が家族のことなので家族のことが書かれているのだけれど、家族というか空間の中に一緒にいる人たちという感覚だと思った。ゆかりさんとは同じ空間にいてご飯だけは一緒に食べて、テレビとかも一緒に見るけれど、それ以外のことは各々が勝手に過ごしている。日記を書いている今だってゆかりさんはサスペンスドラマを観ている。さっきまでは「有吉の壁」を一緒に観ていた。今の閉塞感を伴う不安には笑いが大切なのだなと思った。
どんどん無意味に深く落ちそうになってしまっているので笑って上を見る力が欲しくなる。ゆかりさんも似たようなことを思っているだろう、おそらく。なんとなく、おそらく通じ合っていると信頼できるのが、家族なのかもしれない。ただそれに甘えると家族だって他人なので当たり前に崩れていく。家族は他人。
零貸店アカミミ「ZINEアカミミ 特集:家族」を読み終えて、また奥山貴宏「31歳ガン漂流」を読み進める。結末がわかるから読み進めていくのが辛くなっていく。わかったしまっているから読んでいる本の中では元気なままでいて欲しいと思ってしまう。


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