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不要不急の外出は禁止と言われても、外に出る人がいて僕も仕事で出かける。
誰かがウイルスとの戦争だと言っていた。誰が言っていたのだろう。えらい人かTwitterの人か。言葉は意識していないとすぐに流れていく。誰の言葉かわからない言葉だけが残っている。
電車に乗りながら海野十三『海野十三敗戦日記』を読む。柴崎友香『わたしがいなかった街で』で登場人物が読んでいた日記だ。日記を読み、駅に停まったら、小説に切り替えて読む。繰り返して読む。
日記では、戦争中でも寒いとか身の回りのことが書かれていて、そうだよな、当たり前だよなと自分が勝手に戦争中は戦争のことしか考えていないと思ってしまっていた。今だってコロナ以外の別のことを考える。ブックオフに行きたいなとか、本屋に行きたいなとかそんなようなこと。
不要不急でも外には人がいる。近所の人なのか、それとも外出しているのかわからない。ただ職場の近くの健康食品を売るところでは老人たちが集まっていた。大丈夫なのか、と二重に思うが特にその場所の中に入って『何やってんだ!!やめろ!』とは言わない。僕も電車に乗って職場に来ているのだから変わらないのかもしれない。
仕事をしながら、これを本当にやっていていいのかと自問自答してしまう。電話で受け答える声はマスクにかぶってこもってしまう。土曜日で人が少ない社内を見回す。コロナ対策で換気をしていて、強い風の音が響く。

早上がりで職場から帰る。コロナが落ち着いて普段通りの勤務になったら長いなって思ってしまうだろう。
いつもより早くに乗った電車にはおそらく結婚式帰りの夫婦がいた。引き出物が大きい。結婚式に行ったのか。自分だったらどうしようか。このタイミングで行くのだろうか。
もしかしたら自分は感染しないのかもしれないと思っているのだろうか。
隣に座ったカップルは大きく揺れればキスしてしまうのではないかという距離で話している。スマホの画面を見せ合っていた。ちらりと僕も見てしまう。立て続けに大量の人が退出したグループLINEの画面だった。
カップルは一駅で降りた。香水の強い香りだけが一瞬残っている。電車の中を見回すと広告が減ったような気がする。
行きと同じように海野十三『海野十三敗戦日記』と柴崎友香『わたしがいなかった街で』を交互に読む。
登場人物が読んでいる本だから文章の中に自分がいるような気がする。ただ本の中ではコロナは流行っていない。マスクもしていない。だけどなんとなく気分は同じ。

『この騒然たる空の下、事実を拾うはなかなか困難であり、それを書きつけるは一層難事であるが、私としては出来るだけ書き残して行きたいと思う。』
海野十三『海野十三敗戦日記』より

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